欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/3/2

EUその他

欧州議会の環境委、排出量取引制度の改革案を承認

この記事の要約

欧州議会の環境委員会は2月24日、EU排出量取引制度(EU-ETS)の改革案について採決を行い、2018年末までに排出権価格を下支えするための「市場安定化準備制度」を導入する案を賛成多数で承認した。改革案は近く欧州議会本 […]

欧州議会の環境委員会は2月24日、EU排出量取引制度(EU-ETS)の改革案について採決を行い、2018年末までに排出権価格を下支えするための「市場安定化準備制度」を導入する案を賛成多数で承認した。改革案は近く欧州議会本会議で採択される見通しで、最終的にEU加盟国の承認を得て実施される。

EU-ETSでは段階的にオークションによる排出枠の有償割当を拡大し、27年までに全面移行することが決まっている。しかし、ユーロ危機に伴う景気低迷で企業の生産活動が停滞し、排出枠に膨大な余剰が生じた結果、排出権価格はピークだった08年の1トン当たり約30ユーロから一時は2ユーロ台まで落ち込み、その後も7ユーロ台で推移している。温室効果ガス排出量を抑えると同時に低炭素技術への投資を促進するためには、少なくとも1トン当たり20ユーロ前後の水準を維持する必要があるとされるが、現在の政策のまま推移した場合、排出権価格は20年までに4ユーロ程度まで下落するとの見方がある。

こうしたなか欧州委は昨年1月、30年に向けた気候変動・エネルギー政策の枠組みをまとめ、同年までに温室効果ガス排出量を1990年比で40%削減するなどの目標を発表。具体策の1つとして、EU-ETSの第4期がスタートする21年以降、年間排出量の上限の削減比率を現行の1.74%から2.2%に引き上げると共に、市場安定化準備制度を導入して排出枠の需給バランスを図る構想を打ち出した。これは経済活動の停滞に伴って発生した余剰排出枠を一旦リザーブ(積み立て)しておき、需給がひっ迫した場面で取り崩して排出権価格を安定させる仕組みだ。

欧州委の提案に対し、英国、フランス、ドイツなどは低炭素社会への転換を推進するため、市場安定化準備制度の導入を17年に早めるべきだと主張。一方、依然として石炭への依存度が高いポーランドをはじめとする東欧諸国は同制度の早期導入に強く反対しており、1月に開かれた欧州議会産業委員会では加盟国間の対立を反映し、採決が無効になった経緯がある。

環境委では妥協案として、18年12月31日までに市場安定化準備制度を導入する案が賛成57、反対10、棄権1で承認された。同制度の運用開始が実質的に19年となることについて、早期導入を主張していた欧州緑の党の幹部は「弱気の妥協」と批判。欧州風力エネルギー協会(EWEA)も、「政治的策略」によって再生可能エネルギーへの投資計画に遅れが生じかねないと警告している。

一方、欧州炭素市場に関する調査・分析を専門とするIcis Tschachのチーフアナリスト、フィリップ・ルフ氏は、新たな余剰排出枠を吸収するメカニズムを確立することがEUにとって重要で、準備制度の開始時期はさほど問題ではないと指摘。同制度の導入によって排出権価格は1トン当たり15ユーロ程度押し上げられる可能性があり、有償配分する排出枠の入札を一部延期する「バックローディング」など他の施策と組み合わせることで、排出権価格は20年までに30~35ユーロ、30年までに40ユーロ前後まで上昇するとの見方を示している。