欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2017/6/19

EU情報

EU域外のユーロ建て金融取引清算の監督強化へ、機関の移転強制も

この記事の要約

欧州委員会は13日、EU域外で行われるユーロ建て金融取引の清算業務に対する監督を強化する法案を発表した。英国のEU離脱に伴い、ロンドンに拠点を置く清算機関がEU規制の対象外となることを受けたもので、金融システムの安定を維 […]

欧州委員会は13日、EU域外で行われるユーロ建て金融取引の清算業務に対する監督を強化する法案を発表した。英国のEU離脱に伴い、ロンドンに拠点を置く清算機関がEU規制の対象外となることを受けたもので、金融システムの安定を維持するために必要と判断した場合は、清算機関に域内への移転を命じる。

英国は非ユーロ圏だが、ユーロ建て金融取引の中心地で、ロンドン証券取引所(LSE)傘下のLCHクリアネットはユーロ建て金利デリバティブ取引の決済の大半を扱っている。EUは現在、英中銀のイングランド銀行を通じて間接的に監督できるが、英の離脱によって同国の清算機関にEU規制が適用できなくなることから、欧州委は制度改革を進めることを決めた。

同法案では欧州証券市場監督局(ESMA)が金融システムの安定に「重要」とみなした清算機関について、直接監督下に置き、担保要件などを強化する権限を持つ。立ち入り検査も行う。

さらに「極めて重要」と判断した清算機関に関しては、監督を強化しても十分ではないと判断すれば、「最終手段」として強制的にEU内に移転させる。移転の可否はESMAが欧州中央銀行(ECB)などと連携して判断し、欧州委に勧告する。移転の最終決定権は欧州委が握る。「重要」判断に際しては、決済額など明確な数量基準は設けず、決済の規模、破綻した場合にEU金融市場に及ぼす影響などを総合的に審査して決める。

英国の清算機関をめぐっては、米国当局がドル建て取引について監督する権限を持つが、移転を命じることはできない。欧州委の提案が加盟国、欧州議会の承認を経て実現すると、EUは強力な権限を得ることになる。

欧州委は5月4日、域外の清算機関に対する監督を強化する法案を準備していると発表。英国内では反発の動きが広がっていたが、清算機関は金融システムの安定維持に重要な役割を担っているとして、法案提出に踏み切った。ただし、英国が懸念していた清算機関の全面的な強制移転は見送った。

同法案ではLCHクリアネットが「極めて重要」な清算機関に認定されるのは確実だ。ただ、金融専門家らの間では、EUが第三国の清算機関に移転を強制することには法律上の問題があって難しく、欧州委の法案提出には英政府との離脱交渉を有利に進めるための「切り札」を確保するのが狙いとの見方も出ている。