欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2017/7/10

EU情報

日欧がEPAで大枠合意、19年発効に向け最終調整へ

この記事の要約

日本とEUは6日、ブリュッセルで首脳会議を開き、経済連携協定(EPA)の締結で大枠合意に達した。日本は欧州産チーズに低関税の輸入枠を設けるなど、農業分野で市場開放を進める一方、EUは日本製の乗用車に対する関税を撤廃する。 […]

日本とEUは6日、ブリュッセルで首脳会議を開き、経済連携協定(EPA)の締結で大枠合意に達した。日本は欧州産チーズに低関税の輸入枠を設けるなど、農業分野で市場開放を進める一方、EUは日本製の乗用車に対する関税を撤廃する。発効すれば世界の国内総生産(GDP)の約3割、貿易額の約4割を占める強大な自由貿易圏が誕生する。EUは2019年初頭の協定発効を目指しており、年内の最終合意に向けて投資家保護など積み残した課題について協議を進める。

EU側からはトゥスク大統領と欧州委員会のユンケル委員長が安倍晋三首相との会談に臨んだ。EUはトランプ政権の誕生で米国との包括的貿易投資協定(TTIP)交渉が停止状態に陥っており、英国の離脱決定で低下したEUの求心力を回復するためにも、7日から開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議の前にEPA交渉で大枠合意にこぎつけたいとの思惑があった。

EU側は対日EPAを「EUがこれまでに締結した通商協定で最も重要なもの」と位置付ける。トゥスク大統領は英国のEU離脱を念頭に、「EUの外にいた方が通商上、有利に働き、EU内に留まる価値はないとみる向きもあったが、本日の大枠合意によってその考えは正しくないことが証明された」と指摘。ユンケル委員長は「協定を通じてEUと日本は共通の価値観を守り、世界に向けてオープンで公正な貿易を支持するという強いメッセージを送る」と述べた。また、マルムストローム委員(通商担当)は「EUと日本は自由貿易の価値を信じている。より開かれた貿易が壁ではなく、橋を築く」とつけ加えた。

2013年4月にスタートしたEPA交渉では、欧州産チーズと日本車の関税が最大の焦点になっていた。日本側は現在29.8%の関税をかけているカマンベールやモッツァレラなどのソフトチーズに低関税の輸入枠を設け、初年度の2万トンから16年目には3万1,000トンに枠を広げて段階的に関税を撤廃する。欧州産ワインについては協定の発効後、関税を即時撤廃。パスタとチョコレート菓子も発効後10年で関税を撤廃する。さらに欧州産の牛肉や豚肉に対する関税も段階的に削減する。

一方、EU側は日本製の乗用車にかけている10%の関税を協定発効から8年目に撤廃するほか、自動車部品については貿易額ベースで92.1%にあたる品目について、協定発効後、直ちに関税を撤廃する。

このほか農業分野では、地理的表示(GI)保護制度を相互に認め合うことで合意。EU側は農産品71品目と酒類139品目、日本側は農産品31品目と酒類8品目の保護リストを作成する。

日欧EPAが発効すると95%以上の貿易品目で関税が撤廃され、欧州委はEUから日本への輸出が最大200億ユーロ拡大すると試算している。さらに日本とEUはサービス分野や公共調達など物品以外の市場アクセスの改善や、知的財産や電子商取引など幅広いルールでも合意した。

最終合意に向けた今後の協議では、投資をめぐる企業と国家間の紛争処理の仕組みが最大の焦点になる。EUは環太平洋経済連携協定(TPP)などに盛り込まれている「投資家対国家の紛争解決(ISDS)」条項に代わるメカニズムとして、常設の投資裁判所の設置を求めている。EU側は「古いスタイルのISDSに戻れないことは明らかだ」と強調し、日本から譲歩を引き出したい考えを示している。