欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2017/10/16

EU情報

英・EUの離脱交渉が難航、通商協議開始は来年か

この記事の要約

EUと英国は9~12日に英国の離脱をめぐる第5回交渉会合を行ったが、大きな進展がないまま終了した。英国は19、20日に開催されるEU首脳会議で、通商を中心とする将来の関係に関する協議の開始を取り付けたい考えだが、EU側は […]

EUと英国は9~12日に英国の離脱をめぐる第5回交渉会合を行ったが、大きな進展がないまま終了した。英国は19、20日に開催されるEU首脳会議で、通商を中心とする将来の関係に関する協議の開始を取り付けたい考えだが、EU側は応じないことを言明しており、同協議の開始は早くとも来年1月となりそうだ。

離脱交渉は2段階方式。現在は英国が拠出を約束したEU予算の分担金など「清算金」の支払い、英国に居住するEU市民の権利保護、英国の北アイルランドと国境を接する加盟国アイルランドとの国境管理問など離脱条件に関する交渉が行われている。これに「十分な進展」があったとEU側が判断すれば、自由貿易協定(FTA)締結など将来の関係をめぐる協議に進む。

第1段階の交渉で最大の焦点となっているのが清算金。双方が主張する額に大きな開きがあり、他の問題の交渉が一定の前進を示しているのに対して、対立が続いている。

メイ首相は9月22日の演説で、事態の打開に向けて、EUの現行中期予算の最終年である2020年まで約束した拠出金を支払うことを言明。額は明示しなかったが、英政府による中期予算の年間拠出額は100億ユーロ程度であることから、2年で計200億ユーロを支払う計算となる。

しかし、今回の交渉では英政府のデービスEU離脱担当相が依然として具体的な支払額を提示しなかったことから、溝はまったく埋まらず、EUのバルニエ首席交渉官によると実質的な話し合いにさえ至らなかった。

バルニエ首席交渉官は会合終了後の記者会見で、清算金をめぐる協議が「暗礁に乗り上げた。憂慮すべきことだ」とコメント。次週のEU首脳会議で、「第1段階の交渉に十分な進展があったと報告し、将来の関係の協議開始を勧告することはできない」と述べた。ただ、「政治の意思により、向こう2カ月以内に行き詰まりを打開できると信じている」と述べ、12月のEU首脳会議で第2段階の交渉入りが決まることは可能との見解を示した。それでも実際の交渉開始は年明けとなる。

英国は2019年3月にEUを離脱することになっている。離脱交渉の期間は原則2年だが、英政府がEU離脱を正式通告した3月29日にカウントダウンが始まったため、残る交渉期間は18カ月を切っている。交渉結果は欧州議会などの承認を得なければならず、その手続きに時間がかかることから、18年秋には交渉を妥結させる必要があり、実質的な交渉期間はさらに少ない。関係者らの間では、第2段階の交渉開始は来年初めがデッドラインとの見方が出ている。

このため交渉が期限内にまとまらず、通商などで協定を結ばないまま離脱する事態が生じるとの懸念が強まってきた。EUにとっても、このような無秩序な離脱は避けたいところだ。ロイター通信などによると、英国を除くEU27カ国が20日に開くEU首脳会議で採択する声明文の原案には、12月に第2段階の交渉開始が決まることを見据え、加盟国の閣僚とバルニエ首席交渉官に同交渉の「内部準備」に着手するよう指示することが盛り込まれているという。清算金問題さえ決着すれば、EUがいつでも通商協議を開始できることをアピールし、英国側の歩み寄りを促す狙いもあるとみられる。