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2015/3/25

総合 - ドイツ経済ニュース

廃炉コストの納税者負担回避へ、経済省が対策検討

この記事の要約

原子力発電を全廃するとともに再生可能エネルギーの普及を促進するドイツの「エネルギー転換政策(Energiewende)」の進展に伴い問題・課題が数多く出ているなか、所轄官庁の連邦経済省が2つ分野で課題克服に向けた政策方針 […]

原子力発電を全廃するとともに再生可能エネルギーの普及を促進するドイツの「エネルギー転換政策(Energiewende)」の進展に伴い問題・課題が数多く出ているなか、所轄官庁の連邦経済省が2つ分野で課題克服に向けた政策方針を固めつつある。1つは原発の廃炉コストの確保、もう1つは電力の安定供給維持に向けた予備発電所の拡充で、今後、与党や州政府、電力業界、経済界の意見を踏まえ法案を作成する予定だ。

経済省は20日、原発の廃炉と放射性廃棄物の最終保管コストを確保する方法の模索に向けて弁護士事務所に作成依頼していた鑑定書を公表した。エネルギー転換政策を受けて原発事業者の業績が悪化し、長期的に経営破たんするリスクを排除できないことが背景にある。原発事業者が経営破たんすると巨額の納税者負担が発生する恐れがあるため、経済省はそうした事態を避けるための準備として同鑑定書の作成を依頼していた。

ドイツでは計4社が原発を運営しており、これまでに合わせて385億ユーロの引当金を計上した。内訳はエーオンが166億ユーロ、RWEが103億ユーロ、EnBWが81億ユーロ、バッテンフォールが35億ユーロ。4社は引当額が十分だとして、廃炉と放射性廃棄物の最終保管に問題は起きないと主張している。

一方、鑑定書は、廃炉と最終保管は過去に経験がないためコストがどの程度に膨らむかが定かでなく、4社の引当金が十分かどうかも判断できないと指摘。また、仮にこれらの企業が経営破たんした場合は、計上した引当金を実際にどの程度、現金化できるかも明確でないとしている。引当金の一部は発電所や送電網など現物資産の形で計上しているためだ。

引当金を十分に現金化できないと、廃炉・最終保管コストを政府が肩代わりし最終的に納税者が負担することになりかねない。こうした可能性を踏まえ鑑定書は、公的基金を設立して原発事業者が積み立てた引当金の少なくとも一部を同基金に移管することを提言した。

鑑定書はまた、エーオンが経営資源を将来性の高い再可エネ事業などに絞り込み原発事業を分社化しようとしていることを踏まえ、こうした措置への政府の対応策も提案した。現行法では分社化した事業に対する親会社の責任負担期間が5年に制限されており、分社後6年目以降に経営破たんすると政府が負担を肩代わりせざるを得なくなるためだ。鑑定書は親会社の責任負担期間を法改正で延長するよう勧めている。

同鑑定書は弁護士事務所ベッカー・ビュットナー・ヘルトが作成した。政府は今後、同提言を踏まえて原発4社と協議していく。

送電事業者に電力確保義務づけ

再生可能エネルギー由来の電力が大幅に増えると、電力供給が不安定になる。ソーラー発電は日光量、風力発電は風量に電力の生産量が大きく左右されるためで、天候の変化による発電量の減少に備えるためには十分な予備発電能力の確保が欠かせない。

ドイツでは特に南部地域で電力が不足しやすい。原発依存度が高かったためで、特に冬場は停電リスクが高い。その対策として南部地域とその隣接諸国にはすでに「ネッツリゼルヴェ(ヴィンターリゼルヴェ)」と呼ばれる予備発電所がある。

経済省はこれとは別に、新たに「キャパツィテーツリゼルヴェ」という二次的な予備発電所を設定し、電力供給の安定性を一段と高める考えだ。同省が作成した文書ではこれを「ズボンをつって固定するサスペンダー」のような役割を果たすと説明している。サスペンダーがなくても基本的にズボンは下がらないが、万が一のためにサスペンダーを利用するという意味だ。

キャパツィテーツリゼルヴェに選定された施設の発電能力総量はピーク時の国内電力需要の5%とする考え。これは約4ギガワットに相当する。経済省は入札を実施してキャパツィテーツリゼルヴェ用の発電所を選定する。計4~8カ所となる見通し。

キャパツィテーツリゼルヴェの発電は送電事業者の要請を受けて実施する。送電事業者はまず、電力取引所の取引動向を踏まえて、翌日の電力需要を十分にカバーできない可能性があると判断した場合、キャパツィテーツリゼルヴェ発電所のスタンバイを発電事業者に要請。電力供給量の不足が実際に避けられない場合はこれを利用する。

キャパツィテーツリゼルヴェの発電コストは発電を依頼した送電事業者が負担し、消費者など最終需要家への転嫁は認められない。送電事業者は先物取引とスポット取引を通して電力の安定供給を保つことが義務づけられるためで、そうした措置で十分な量の電力を確保できずキャパツィテーツリゼルヴェを利用するのは送電事業者の責任だという論理だ。

老朽石炭発電所に排出上限枠設定へ

経済省はこのほか、老朽化した石炭発電所の二酸化炭素(CO2)排出量を制限し、許容量以上を排出した発電所には排出権の購入を義務づける方針案も打ち出している。ドイツ全体のCO2排出量を 2020年までに1990年比で40%削減する目標の実現に向けた措置で、築21年以上の施設が対象となる。上限枠は築21年の発電所で年700万トン、同41年で300万トン。築年数が高ければ高いほど採算が悪化するため、同方針が実施されると多くの石炭発電所が廃止に追い込まれそうだ。

この措置に伴い電力料金は1キロワット時当たり最大0.2セント上昇する見通し。

CO2発電量が多い褐炭発電所を州内に多く抱えるノルトライン・ヴェストファーレン州のクラフト首相は、雇用が大量に失われる恐れがあるとして方針の再検討を求めている。与党内からも批判が出ていることから、法案作成は難航しそうだ。