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2016/4/13

総合 - ドイツ経済ニュース

世界初のFCVカーシェア、工業ガスのリンデが今夏立ち上げ

この記事の要約

工業ガス大手の独リンデは7日、水素燃料電池車(FCV)に特化したカーシェアリングサービスを開始すると発表した。水素FCVのカーシェアは世界初。FCVは電気自動車(EV)よりも航続距離が長いことから、EVカーシェアでカバー […]

工業ガス大手の独リンデは7日、水素燃料電池車(FCV)に特化したカーシェアリングサービスを開始すると発表した。水素FCVのカーシェアは世界初。FCVは電気自動車(EV)よりも航続距離が長いことから、EVカーシェアでカバーできない需要を掘り起こす考えだ。まずは今夏にミュンヘンでスタートし、順調であれば他の都市にも拡大していく。

新設した子会社リンデ・ハイドロジェン・コンセプツが「ビーゼロ(BeeZero)」ブランドでサービスを提供する。現代自動車のFCV「ix35フューエルセル」合わせて50台をミュンヘン市内のシュヴァービング、ハイトハウゼン、アウ、グロッケンバッハ地区に配備。利用者はインターネットないしスマートフォンのアプリで予約し利用する。リンデは現代自以外の水素FCVの利用を排除しないとしており、将来的に日本やドイツメーカーのFCVを採用する可能性もある。

ix35フューエルセルの航続距離は400キロメートルを超える。このため、航続距離が短く都市内での利用を想定したEVカーシェアと異なり、利用者はミュンヘン近郊の山岳・湖沼地帯に遠出できる。

利用後は借り受けた場所まで車両を戻さなければならない。この点は乗り捨て可能な都市型のEVカーシェアより利便性が低い。料金は未定だが、リンデは市場で一般的な水準に抑える考えを示している。

燃料の水素は有害物質を一切排出することなく環境に優しい方式で生産する。

リンデは水素・燃料電池技術に関する「国家技術革新プログラム(NIP)」の枠組みを利用して連邦交通・デジタルインフラ省から資金支援を受ける考えで、現在、申請手続きを行っている。

水素供給網の構築進まず

FCVはEVと並ぶ環境対応車として将来性が期待されており、日独メーカーなどは開発に注力。トヨタ自動車は2014年12月、世界初の量産型FCV「ミライ」を市場投入した。ホンダも「クラリティ・フューエル・セル」を3月に発売したところだ。

ドイツ勢では高級車大手のダイムラーが中型SUV「GLC」をベースとするFCVを17年から量産。18年には生産規模を4ケタ台に引き上げる考えだ。日産、フォードと共同開発した駆動装置を投入する。

フォルクスワーゲン(VW)は1月、高級車子会社アウディに燃料電池車のグループ開発本部を設置した。BMWもFCVの分野でトヨタと戦略提携を結んでいる。

ただ、FCVは実用化の面でEVに後れを取っているうえ、将来の見通しにもやや陰りが出ている。FCV普及の前提となる水素供給網の構築が停滞しているうえ、EV普及の障害とみられてきた問題点が着実に克服されつつあるためだ。

デュースブルク・エッセン大学自動車研究センター(CAR)のドゥーデンフェファー所長によると、水素ステーションの数は現在、世界全体で214カ所にとどまる。充電スタンドに比べて設置コストが高いことが普及の足かせとなっているためだ。ドイツには民間主導で23年までに約400カ所からなる水素スタンド網を構築する計画があるものの、現在は34カ所にとどまっている。

また、ドイツ国内を網羅する水素供給網が実現したとしても、他の欧州諸国が歩調を合わせなければFCV需要の大幅拡大は期待できない。隣国フランスはEVの普及に注力する反面、FCVには力を入れておらず、欧州の状況は厳しい。

EVはこれまで、航続距離の短さ、長い充電時間、高価格の3点が普及のネックとされてきた。これらの問題は急速に解決されつつあり、ダイムラーのツェッチェ社長は昨夏、EVに対するFCVのメリットは5年前に比べて小さくなったとの認識を示した。

現状ではFCV市場が大きく拡大しない恐れがあることから、リンデはカーシェアサービスの立ち上げを決めたもようだ。FCVの需要創出につながる取り組みを自ら行うことで水素の新たな市場を切り開く狙いとみられる。