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2016/12/7

総合 - ドイツ経済ニュース

乗用車高速料金問題で玉虫合意、周辺国は提訴の意向

この記事の要約

ドイツのアレクサンダー・ドブリント交通相と欧州連合(EU)欧州委員会のヴィオレタ・ブルツ委員(運輸担当)は1日、ブリュッセルで共同記者会見を開催し、同国政府が乗用車を対象に導入予定の高速道路走行料金をめぐる争いで両機関の […]

ドイツのアレクサンダー・ドブリント交通相と欧州連合(EU)欧州委員会のヴィオレタ・ブルツ委員(運輸担当)は1日、ブリュッセルで共同記者会見を開催し、同国政府が乗用車を対象に導入予定の高速道路走行料金をめぐる争いで両機関の合意が成立したと発表した。独政府が計画の部分修正を表明したことで、欧州委が問題視していた他の加盟国市民に対する料金差別が解消されるとしている。ただ、オーストリアなどの周辺国は差別が依然として残っていると批判。オランダは欧州司法裁判所(ECJ)に提訴する意向を明らかにした。

独連邦議会(下院)は昨年3月、アウトバーン(高速道路)を走る乗用車に通行料を課す法案を可決した。排気量、排ガス性能、燃料の種類に基づいて年22~130ユーロを徴収するという内容。ただし、国内で登録されている車両については自動車税とインフラ税で通行料が全額相殺されるため、実際の課金対象は国外で登録された車両のみとなる。また、国外からの車両向けに有効期限が10日および2カ月のヴィネット(料金前払いの道路利用券)が販売されるが、料金は2カ月有効のもので最大30ユーロと、年間の通行料(最大130ユーロ)に比べて割高になっている。

欧州委はこうした料金制度について、国内の登録車両に料金の相殺を認めるルールはドイツ在住者に対する優遇策であり、国外の利用者に対する差別に当たる可能性があるとして、法案が閣議決定される2014年12月以前から独政府に見直しを求めていた。しかし、ドイツ側はEU法に合致しているとの立場を崩さなかったため、欧州委は昨年6月に最初の警告を行い、今年4月に異議告知書を送付。9月末にはECJへの提訴を明らかにした。

これに対しドブリント交通相はECJで争う構えを示しながら水面下で欧州委と交渉。今回の合意に至った。

具体的には(1)排気量、排ガス性能、燃料に応じて設定する料金区分をこれまでの3種類から5種類に拡大する(2)有効期間が短いヴィネットの料金を全般的に引き下げ、10日間有効なヴィネットでは最低料金を従来の5ユーロから2.5ユーロに半減する――ことにした。排ガス性能が現在最も高い「ユーロ6」の対応車に関しては所有者の負担額を従来計画よりも総額で年1億ユーロ引き下げることも取り決めた。

(2)の合意により、ヴィネットの料金設定に関しては国外登録車両への差別が解消された。ただ、欧州委がこれまで問題視してきた国内登録車両の料金相殺ルールはそのまま残されており、同委はドイツに譲歩した格好だ。

料金収入は目減り見通し

オーストリアのイェルク・ライヒトフリート交通相は今回の合意について「外国人ドライバーに対する差別はこれまでよりも目立たなくなるように覆い隠されたにすぎず、依然として残っている」と述べ、「いかがわしい妥協だ」と批判した。

ドイツは今後、欧州委との合意をもとに新たな法案を連邦議会と連邦参議院(上院)で可決する。欧州委はその後に、同国に対する違反調査手続きを正式に終了するものの、周辺諸国が提訴する見通しのため、最終決着には時間がかかりそうだ。

乗用車高速料金はもともと、国民の負担を増やすことなしに新たな道路財源を確保するという名目で連立与党のキリスト教社会同盟(CSU)が13年の連邦議会(下院)選挙で打ち出した政策だ。連立先のキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)はEU法抵触の懸念があるうえ財源拡大効果も乏しいことから疑問を投げかけていたが、CSUが選挙の目玉とした政策だったため政権協定への採用に同意した。

今回の欧州委との合意により、同料金収入の目減りは避けられないとみられている。ヴィネット料金を全般的に引き下げたうえ、ユーロ6対応車の負担額も軽減したためだ。SPDは費用対効果が見込めない場合は新法案を支持しない可能性を示唆しており、同合意が実現するためにはまず閣議と議会という国内ハードルのクリアが必要となる。