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2017/11/22

総合 - ドイツ経済ニュース

政権交渉決裂、再選挙も 首相の指導力低下、EU改革に停滞懸念

この記事の要約

9月の独連邦議会(下院)選挙を受けてキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と緑の党、自由民主党(FDP)の3会派4党が進めてきた政権樹立の予備交渉が19日夜に決裂した。FDPが交渉打ち切りを表明したためだ。次期政権を […]

9月の独連邦議会(下院)選挙を受けてキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と緑の党、自由民主党(FDP)の3会派4党が進めてきた政権樹立の予備交渉が19日夜に決裂した。FDPが交渉打ち切りを表明したためだ。次期政権を打ち立てるのは難しい状況で、選出されたばかりの議会の解散と再選挙が現実味を帯びてきた。いずれにしてもドイツの政治的な空白の長期化は避けられない見通しで、欧州連合(EU)が抱える課題の解決は足踏み状態に陥りそうだ。メルケル首相(CDU党首)の指導力低下も避けられない。

ドイツでは9月24日に連邦議会選挙が実施され、与党のCDU/CSUと社会民主党(SPD)はともに得票率を大幅に落とした。これを受けSPDは同日中に下野方針を表明。次期政権は中道右派のCDU/CSU、FDPと中道左派の環境政党・緑の党が樹立する以外に選択肢がなくなった。

4党は4週間以上に渡って予備交渉を行ってきたものの、政策の基本方針の違いが大きいことから難航が続いていた。大きな争点となったのは温暖化対策、エネルギー、財政、難民問題。各党が譲歩しなければ合意を実現できないことは当初から明らかだったものの、譲歩しすぎると有権者の支持を失うことになるため、最後まで合意点を見出すことができなかった。

難民問題ではジュネーブ難民条約で定義する難民に該当しないものの、帰国すると迫害の恐れがあるとして滞在が認められている「補完的保護」の享受者の取り扱いが決定的な対立点となった。

2大会派であるCDU/CSUとSPDの大連立政権は2016年、補完的保護の享受者が家族をドイツに呼び寄せる権利を18年3月まで凍結することを決定した。CDU/CSUとFDPはこの措置を18年3月以降も継続することを要求。緑の党はこれに強く反対し、4党は妥協点を見つけることができなかった。

FDPのリントナー党首は19日深夜の記者会見で、FDPと緑の党の間の溝は、FDPとCDU/CSUよりも大きかったと発言。対立点を多く抱えた同床異夢の状態で政権を樹立しても有権者に確約した「政治の転換」を実現できないと交渉打ち切りの理由を説明した。「誤った統治を行うのであれば統治しない方が良い」と英国のメイ首相の発言(悪い合意をするのであれば合意しないほうが良い)をもじった表現を最後に交渉会場を立ち去った。

大統領は各党に再考を要請

今後の可能性としては(1)冷却期間を置いたうえで4党が交渉を再開する(2)CDU/CSUがSPDと再び大連立政権を樹立する(3)CDU/CSUが少数与党内閣を樹立する(4)議会を解散し再選挙を行う――の4つが考えられる。

このうち(1)については、緑の党との相性の悪さを今回の予備交渉で再確認したFDPが受け入れるとは考えにくい。(2)もSPDが拒否の意向を示していることから少なくとも現時点では実現の可能性がない。(3)は安定した政権運営が期待できないため、ドイツにとってマイナスとなるだけでなく、緊急の課題となっているEUの改革も宙に浮く恐れがある。メルケル首相も公共放送ZDFのニュース番組で少数与党内閣の可能性を明確に否定した。

このため再選挙が最も可能性の高い選択肢と目されている。ただ、選挙の結果が9月の選挙と大きく変わらなければ、振り出しに戻るに過ぎず、混迷は一段と深まることになる。

首相を選出できない場合に議会の解散権を持つシュタインマイヤー大統領(前外相)は20日、メルケル首相との会談後の記者会見で、「政府の樹立は常に格闘と口論の困難なプロセスだ。しかし、政権樹立はまた、民主主義における政党への有権者の高い、おそらくは最高の委託だ」と指摘。議会政党は公共の福祉に対する義務を負うと述べ、SPDを含む各党に政権樹立に向けて独力するよう呼びかけた。解散・再選挙を可能な限り回避する考えで、各党の首脳と会談し再考を促していく方針を明らかにした。

政権交渉決裂に対する国外の関心は大きく、フランスのマクロン大統領は「(FDPの)リントナー党首の発言は極めて重大だ。状況が一段と緊迫することは我々のためにならない」と発言。ドイツの政治的な空白の長期化はメルケル首相の協力を受けて同大統領が目指すEU改革の支障になるとの懸念を示唆した。

米『ニューヨーク・タイムズ』紙は「政権交渉の打ち切りはドイツを宙づり状態へと陥れた。欧州と西側世界の大部分がベルリン(ドイツ政府)の指導力に期待をかけているまさにその時に」と失望を示した。仏『フィガロ』紙はメルケル首相の欧州での立場が弱まると指摘。米ブルームバーグ通信は、ドイツの影響力が弱まり、対トルコ・ロシア対策、財政問題、温暖化対策に大きな影響が出ると報じた。

仏『ルモンド』紙は、メルケル首相は難民を大量に受け入れたことで大きな抵抗を受け政治的な立場がすでに弱まっていたと指摘。再選挙が行われれば「メルケル抜き」になるだろうとして、同首相の退任は避けられないとの見方を示した。

メルケル首相はZDFの番組でこうした見方を否定。再選挙が実施される場合は、再び首相候補として立候補すると明言した。