デジタル化進展で雇用は大幅減か

2018/02/07発行 No.1173号

記事分類:総合 - ドイツ経済ニュース

経済のデジタル化の進展が雇用にもたらす影響を巡って、ドイツの経済界でちょっとした波紋が広がっている。きっかけは同国が官民挙げて取り組む経済のIoT化戦略「インダストリー4.0(I4.0)」を推進する主要団体である情報通信業界連盟(Bitkom)のアッヒム・ベルク会長(マイクロソフト独法人の元社長)の発言だ。同会長はメディアに対し、デジタル化に伴い近い将来、国内の雇用が大きく失われると発言。他の業界団体は火消しに追われることになった。

ベルク会長は2日発行『フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)』紙のインタビュー記事で、生活に必要な最低限度の金額を国がすべての市民に給付するベーシックインカムについて「試してみるだけの価値はある」との立場を表明した。経済のデジタル化が進むと、これまで人間が行ってきた作業をロボットやアルゴリズムが行うようになり、失業者が大幅に増加すると予想しているためで、ベーシックインカムの導入でボランティアなどの社会的な活動が活発化するのであれば、悪くないとみているもようだ。

Bitkomが従業員数20人以上の企業500社を対象に実施したアンケート調査によると、「デジタル化の進展で会社の存続が危ぶまれる」との回答は25%に上った。Bitkomは今後5年で340万人の雇用が失われると予想している。これは社会保険に加入義務のある就労者(3,300万人)の約10%に上る水準で、低水準にあるドイツの失業率は近い将来、大幅に高まることになる。

Bitkomはドイツの通信機器業界の雇用規模が1990年代半ばの20万人から現在は10分の1の2万人に減少していることを指摘。デジタル化が進むと今後は銀行・保険、化学・製薬など他の業界でも同様の事態が生じるとの見方を示した。歯科技工士の仕事は3Dプリンターが、税理士の仕事はアルゴリズムが行うようになるとしている。

雇用が失われる一方で、新たな雇用がどの程度、創出されるかについては現時点で算出できないとしており、労働市場の先行きは不透明だ。

シーメンス社長はベーシックインカムを肯定

Bitkom以外の経済団体はベルク会長発言に仰天した。よりによってI4.0の推進団体のトップがデジタル化の負の側面をはばかることなく指摘したからだ。独商工会議所連合会(DIHK)のマルティン・ヴァンスレーベン専務理事は2日の声明で、「デジタル化は経済強国ドイツの中心的な課題である。まさにそれゆえに、誤ったシグナルを送ることは危険だ」と指摘。名指しを避けながらもベルク会長をけん制した。

BitkomとともにI4.0戦略を推進するドイツ機械工業連盟(VDMA)のカールマルティン・ヴェルカー会長はデジタル化によって失われる雇用よりも創出される雇用の方が多いとしてBitkomのアンケート調査結果を批判した。

Bitkomもベルク会長もわずか5年で340万人もの雇用が失われるという予測の根拠を具体的に示していない。Bitkomのような悲観的な予測はむしろ少数派で、連邦雇用庁(BA)傘下の労働市場・職業研究所(IAB)は、ドイツ雇用は2025年までに計150万人失われるものの、創出も含めた差し引きでほとんど変化しないとの調査報告を発表している。

ただ、デジタル化が雇用にもたらす長期の影響については悲観的な見方をする財界人が少なくない。IoTを経営戦略の柱に位置づけるシーメンスのジョー・ケーザー社長は2016年に『南ドイツ新聞』が主催したシンポジウムで、デジタル化に伴う変化のスピードについていけない人々が出てくるが、そうした人々のペースに合わせていたのではドイツと欧州は経済競争に敗れてしまうと指摘。デジタル化の“負け組”にベーシックインカムを保障することは「絶対に避けられなくなる」との見方を示した。「世界のすべての人がソフトエンジニアであるわけではない」ことから、「負け組となる人々を包み込んで共生する寛容な心を持てないのであれば、産業のデジタル化は社会に受け入れられない」とみている。

ベーシックインカム関してはフィンランドが昨年1月に実験を開始した。ドイツではシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州政府が実験を行う意向を昨秋に表明している。

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