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VWが取締役会の刷新を決議 組織も再編、商用車部門はIPOへ

2018年4月18日発行 No.1182号

自動車大手の独フォルクスワーゲン(VW)は12日の監査役会で、組織再編と取締役会の役員交代を決議した。自動車業界で進む急速な変化を受けて取り組んでいる同社の構造改革をこれまで以上に迅速かつ徹底的に推し進めることが狙いで、社長を同日付でマティアス・ミュラー氏からヘルベルト・ディース取締役(VWブランド乗用車担当)へと交代するとともに、取締役でも役員を入れ替えた。組織再編では計12あるブランドを「大衆車」「高級車」「超高級車」「商用車」の4部門に編成したうえで、商用車部門は新規株式公開(IPO)に向けて株式会社へと改めることを決めた。

今回の監査役会は当初、13日に予定されていた。だが、10日のマスコミ報道をきっかけにミュラー社長の解任方針が明らかになり、従業員の間に動揺が広がったことから前倒しした。同社長は退任の形を取っているものの、実質的に解任された格好だ。

ミュラー社長は2015年、排ガス不正問題の発覚で辞任したマルティン・ヴィンターコルン社長の後任として就任した。排ガス不正問題で悪化した財務をV字回復させるとともに、車両の電動・IoT・自動運転化に向けた経営の方向転換にも成功した。

こうした功績があるにもかかわらず解任された背景には、ミュラー社長が監査役会に“敵”を作ったほか、ディース取締役の評価が高まったことがある。

ディース取締役は2015年7月、ヴィンターコルン社長(当時)が高級車大手のBMWから引き抜いた人材で、ヴィンターコルン社長の後釜と目されていた。だが就任から3カ月も経たない9月下旬に、排ガス不正問題の責任を取ってヴィンターコルン社長が辞任したことから、VWグループで実績を上げていない新参のディース取締役が社長に就任する可能性はひとまず閉ざされた。

ディース取締役はBMW時代にコストカッターとして辣腕を振った人物で、VWでは収益力が低迷するVWブランド乗用車の改革を託された。同取締役は従業員代表の事業所委員会、金属労組IGメタルと激しい応酬を繰り広げながら改革計画を策定するとともに、これを貫徹。17年には売上高営業利益率を16年の1.8%から4.1%へと引き上げることに成功した。

VWの親会社であるポルシェ・アウトモビル・ホールディングのオーナー一族(ポルシェ家とピエヒ家)は同取締役の手腕を高く評価。VWの社長に昇格させることを強く望むようになった。VWグループの従業員代表として監査役を務めるベルント・オスターロー氏(コンツェルン事業所委員長)も、グループ全体の改革を推し進める能力はミュラー社長よりもディース取締役の方が高いとの判断に至ったもようだ。

社長交代で

資本・労働側の監査役が一致

ミュラー社長の失言も命取りとなった。同社長は『シュピーゲル』誌のインタビューで、高額報酬の制限を求めるドイツ国内での議論について、あらゆる事柄を統制した社会主義国家の旧東ドイツと同じだと揶揄。VWの監査役であるニーダーザクセン州のシュテファン・ヴァイル首相(社会民主党)はこの発言に激怒し、公然と批判した。

ミュラー社長は退任後の身の処し方を問われた質問に対しても、ハードワークが必要なVWの監査役会長には就任しないが、監査役であれば務めてもよいと監査役をバカにしたような回答した。ミュラー社長は失言が目立つことから、ヴァイル州首相は大企業のトップとして不適格だと思うようになったとされる。ニーダーザクセン州はVWに20%出資する大株主で、ポルシェ、ピエヒ両家に次ぐ大きな影響力を持つ。

ミュラー社長は能力不足でなく、より優れた人材の登場と失言が原因で解任された格好だ。議決権比率にして計70%超の株式を保有する資本側の監査役(ポルシェ家、ピエヒ家、ニーダーザクセン州首相)と従業員・労組側で絶大な影響力を持つオスターロー監査役が手を結んだ以上、ミュラー社長がこれに抗することは不可能だった。

ディーター・ペッチュ監査役会長はプレスリリースで、ミュラー社長の功績をたたえ、謝意を表明。それとともにディース新社長について、抜本改革を迅速かつ徹底的に推進できる「適任の経営者」だと太鼓判を押した。

今回の監査役会では、カールハインツ・ブレシング取締役(人事担当)を同日付でコンツェルン事業所委員会のグンナール・キリアン幹事長に交代することも決めた。キリアン氏はVWで大きな力を持つオスターロー監査役の腹心であることから、同監査役の影響力は一段と強まりそうだ。

フランシスコ・ハビエル・ガルシア・サンス取締役(調達担当)は自らの意志で退任する。後任は未定で、当面はVWブランド乗用車のラルフ・ブラントシュテッター取締役(調達担当)が代行する。

このほか、VWの超高級車子会社であるポルシェAG(ポルシェ・アウトモビル・ホールディングの孫会社)のオリファー・ブルーメ社長がVW取締役に就任した。

ディース新社長はVWブランド乗用車の社長をこれまでに引き続き務める。また、車両IoT化の重要性が高まっていることから、車両IT分野の統括責任者となる。

商用車部門の本社移転

12ブランドの再編では、VWとシュコダ、セアトの3ブランドを大衆車、アウディを高級車、ポルシェ、ベントレー、ブガッティ、ランボルギーニの4ブランドを超高級車、MAN、スカニア、フォルクスワーゲン・カミーニョス・エ・オニブス(南米ブランド)、RIO(コネクテッドトラックシステム)の4ブランドを商用車部門に割り振る。これにより事業効率とシナジー効果を高める考えだ。

乗用車事業との関連が薄い商用車部門(フォルクスワーゲン・トラック・アンド・バス=VWTB)については事業の拡大や強化に向けた資金を調達しやすくするために、有限会社から株式会社へと改める。まずはドイツ法に基づく株式会社(AG)とし、その後に欧州株式会社(SE)へと変更する。電動・IoT化とコネクテッドサービスの強化、事業地域の拡大を通して商用車市場の「グローバルチャンピオン」となることが目標だ。

VWTBの本社は独北部のブラウンシュヴァイクから南部のミュンヘンに移転する。ミュンヘンはブラウンシュヴァイクと異なりVWの本社所在地ヴォルフスブルクから距離的に遠いため、VWTBに対するVW本社の影響力は弱まるとみられる。

VWTBの株式会社化・IPOに向けてはMANの事業を整理する必要がある。MANは船舶用エンジンなどを手がけるMANディーゼル・アンド・ターボと上場する特殊ギア子会社レンクを傘下に持つためだで、VWTBのアンドレアス・レンシュラー社長は16日の記者会見で解決策を模索すると語った。

1週間以内に独2社でトップ交代

ドイツでは最大手銀行のドイツ銀行でも頭取が実質解任に形で8日に交代しており、わずか1週間以内に同国を代表する企業2社でトップの首がすげ替えられた。両社の措置は改革の「スピード」と「実行力」をキーワードとする点で共通しており、時代が大きく変化するなかで企業を勝ち組へと導く卓越した指導力がこれまで以上に求められるようになっているようだ。

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