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VW元社長を米当局が起訴、排ガス不正の不公表を決めた容疑

2018年5月9日発行 No.1185号

米司法省は3日、独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)グループのマルティン・ヴィンターコルン元社長をディーゼル車排ガス不正問題に絡んで起訴したと発表した。共謀して当局を欺いたためと説明している。ジェフ・セッションズ司法長官は欺きのシステムはVWグループの最上部にまで及んでいたと批判した。

VWのディーゼル車には台上試験と実際の路上走行の違いを認識し台上試験でのみ排ガス処理が適切に行われるようにする違法なソフトウエアが長年に渡って搭載されていた。この事実が2015年9月に発覚すると、ヴィンターコルン社長(当時)は責任を取って同月中に辞任した。

同元社長は、排ガス不正の事実を15年9月になって初めて知ったと主張している。これに対し米捜査当局は、(1)14年5月23日の時点で知らされていた(2)15年7月27日の取締役会でこの問題を協議するとともに、不正の事実を公表しないことを承認した――と判断。起訴に踏み切った。

(1)は同社製ディーゼル車が窒素酸化物(NOx)を大量に排出することに関する米環境当局の質問に回答できないでいるとの文書をヴィンターコルン氏の週末用メールボックスに側近が送ったというもの。文書では違法な排ガス処理機能が搭載されていないかどうかを米当局が調査する見通しが伝えられている。

この文書がヴィンターコルン氏の手元に届いたことは確認されている。だが、同氏は読んでいないと主張。VWも16年3月に、同氏が読んだかどうか、またどの程度の認識を持ったかは解明されていないとの声明を出した。

ヴィンターコルン氏は(2)についても違法性を認識していなかったとしている。VWも同取締役会の参加者がこの時点でソフトの違法性を認識していたかどうかは解明されていないとの見解だ。

起訴は株主訴訟にも影響

ヴィンターコルン氏が米国で逮捕され、公判に被告人として出廷する可能性はほとんどない。独法務省が身柄を引き渡さない意向を表明しているうえ、メディア報道によると、同氏は国外旅行を控えているためだ。

ドイツの基本法(憲法)では国民を外国に引き渡すことが原則的に禁じられている。また、米国との間では犯罪人引き渡し条約を締結しているものの、引き渡しは義務でなくあくまで任意であることが明記されている。

米国が国際刑事警察機構(インターポール)を通して国際指名手配をした場合は、たとえ欧州連合(EU)域内であってもドイツ以外では逮捕されて米国に引き渡される可能性がある。このためヴィンターコルン氏は国内にとどまらざるを得ない状況だ。

米当局は同氏が逃亡する可能性があるとして逮捕状を出した。裁判で有罪判決が下されると、最大25年の自由刑が課される恐れがある。VWは米司法省に全面協力する意向を表明した。

ヴィンターコルン氏に対しては排ガス不正の情報公開を不当に遅らせた容疑で独ブラウンシュヴァイク検察当局も捜査を進めている。

ヴィンターコルン氏を米当局が起訴したことは二つの暗い影をVWに落としている。同氏だけでなく現経営陣が起訴されるリスクと、株主訴訟で不利になるリスクが高まったためだ。

15年7月27日の取締役会に参加した役員の半数以上はすでにVWを去っている。だが、ヘルベルト・ディース社長(当時:VWブランド乗用車担当)とルパート・シュタートラー取締役(アウディ担当)、ハンスペーター・ペッチュ監査役会長(財務担当)の3人は現在も同社に在職中だ。

メディア報道によると、米当局はディース社長が米国など国外に出国しても排ガス不正問題で逮捕しないことを確約した。理由は不明だが、VW取締役への就任が焦点となっている取締役会の開催日直前の7月1日だったことから、排ガス不正問題で重要な役割を果たしていないと判断された可能性がある。

ただ、シュタートラー取締役とペッチュ監査役会長は米当局から今後、起訴される可能性を排除できないことから、国外出張を控えなければならなくなる可能性がある。

VWは排ガス不正に絡んで当局、顧客との間で和解を結び、これまでに計250億ユーロ以上の引当金を計上した。適時開示義務違反で株価が下落し損失を被ったとして株主が起こしている損害賠償請求訴訟についてはこれまでのところ、引当金を計上していない。

だが、ヴィンターコルン社長が15年7月ないし14年5月の時点で不正の事実を知っていたことが米国の裁判で事実として確定すれば、株主は損賠訴訟で追い風を受けることになる。損賠請求総額は約100億ユーロに上ることから、同社は引当金の大幅積み増しに追い込まれる恐れがある。

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