政治的混乱が続くマケドニア情勢をめぐり、欧州委員会の報道官は21日、翌日にウィーンで開催予定だった欧州連合(EU)の仲介による与野党協議を取り止めたことを明らかにした。イワノフ大統領が今月12日、政権中枢の汚職や職権乱用を示唆する盗聴記録をめぐり、疑惑の渦中にあるグルエフスキ前首相ら56人に対する恩赦を決定したことを受け、野党側が恩赦の撤回を協議参加の条件としていたため。野党側は6月に予定される総選挙もボイコットする構えを見せており、EU高官は事態が収束しなければ政府関係者らに対する制裁を検討するとともに、EU加盟プロセスを凍結する可能性を示唆している。
マケドニアでは14年4月の総選挙で与党連合が勝利したが、野党は不正操作があったと主張して議会をボイコット。さらに最大野党の社会民主同盟(SDSM)は昨年2月、政権側による不正選挙のほか、汚職や不正な資金管理、反体制派の追放を目的とした刑事事件の捏造などを示す内容の盗聴記録を公開した。政府はこれに対し、盗聴テープは外国の情報機関の協力を得て作成されたもので不正行為の事実はないと反論。グルエフスキ首相はSDSMのザエフ党首がクーデターを企てたなどと主張し、野党との対決姿勢を鮮明にした。
その後、北部で銃撃戦が発生し、反政府運動が激化するなか、加盟候補国であるマケドニアの政情不安がバルカン諸国に波及する事態を懸念するEUが仲介に乗り出し、主要4党は昨年7月、グルエフスキ首相が今年1月に辞任し、4月に総選挙を前倒し実施することなどで合意。盗聴記録について事実関係を検証する特別検察官を任命することも合意文書に盛り込んだ。しかし、その後も与野党間の対立は解消しておらず、前首相の辞任以外の合意内容は履行されていない。
EU高官は匿名を条件に「事態収拾に向けた動きを妨害する政治家に対し、EU内への渡航禁止や資産凍結などの措置を検討する用意がある。マケドニアは国際社会で孤立化に向かっている」と警告。特にイワノフ大統領が前首相らに対する訴訟手続きを妨害した点を強く非難し、56人の政治家に対する恩赦を速やかに撤回することがEUが仲介を継続する前提条件になると述べた。
また、ウィーンでの与野党協議に立ち会うことになっていた欧州委のハーン委員(欧州近隣政策・拡大交渉担当)は「マケドニアがEU加盟に向けたプロセスで後退している現状を遺憾に思う。事態の改善が見られない場合、必要な措置を検討しなければならない」と発言。当面は6月5日に予定される総選挙の実施に向け、早急に選挙人名簿を整備するなどして公正な選挙が行われることを内外に示す必要があると指摘した。