欧州委員会は20日、欧州連合(EU)域内の他の国に一時的に派遣されて就労する「海外派遣労働者」の権利保護を強化するため、今年3月に提示した「労働者派遣指令」(1996年制定)の改正案を維持する方針を表明した。派遣元となる自国企業の競争力低下を懸念する東欧諸国など11カ国は規制強化に反対し、EUの権利行使に関する原則が尊重されていないとして各国議会が共同で欧州委に改正案の見直しを求めていたが、欧州委は手続き上の問題はないと判断した。
海外派遣労働者はEU域内に拠点を置く企業に雇用され、他の加盟国に一時的に派遣される労働者を指し、受入れ国で請負業務に従事したり、域内の複数の国で事業展開する企業内での国境を越えた異動、さらに派遣業者が他の加盟国に人材を派遣する場合などが該当する。
現行の労働者派遣指令は送り出し企業に対し、派遣労働者に現地の労働法制を適用するよう義務付けており、これには労働時間の上限や休憩時間、最低賃金、有給休暇、職場における安全衛生などが含まれる。しかし、労使間の労働協約に関して全般的な適用が制度化されていない国では企業ごとの協約締結が基本となるため、2004年に旧東欧諸国がEUに加盟すると、海外派遣労働者が現地の労働者より低い労働条件で就労するケースが急激に増えた。
欧州委はこうした現状を改善するため、海外派遣労働者に支払われる報酬について、従来のように最低賃金だけでなく、ボーナスやその他の手当てについても同業種の現地労働者と同じ条件の適用を義務づける◇派遣業者が他の加盟国に人材を派遣する場合、派遣労働者に関する受け入れ国のルールの適用を義務づける――などを提案した。
これに対し、派遣元の企業を多数抱えるポーランド、ハンガリー、チェコ、ルーマニアなど中・東欧11カ国の議会は、規制強化に反対する口実として、「補完性原則」(地域や国レベルでは目的が十分に達成できない場合に限り、EUとして行動をとるという統治原則)が尊重されていないと主張。EUの権限行使に関連した監視手続きである「イエローカード」と呼ばれる制度(一定数以上の加盟国議会が共同で法案の見直しを要求できるシステム)を利用して、欧州委に改正案の見直しを求めていた。
欧州委のティッセン委員(雇用・社会問題・技能・労働力の移動担当)は声明で、「各国議会の主張を注意深く分析し、表明された懸念について意見交換した結果、欧州委の提案は完全に補完性原則を遵守しており、改正案は維持すべきだとの結論に至った。労働者の派遣は本質的に国境をまたぐ問題であり、欧州委は引き続き域内における人の自由移動を推進していく」と強調している。