スモレンスクの神話~ポーランド

昨年11月にポーランドの政権に就いた「法と正義(PiS)」が神話の定着を図っている。「2010年4月の大統領機墜落事故がロシア、引いてはロシアとの関係改善を図ったトゥスク首相(当時)らの陰謀だった」というものだ。この事故ではヤロスワフ・カチンスキー党首の双子の弟で、当時大統領だったレフ・カチンスキー氏など96人の要人が亡くなった。

ロシアの航空委員会(MAK)は2011年に「操縦士のミス」を事故の主因とみる調査結果を発表し、国際的にも認められたが、それではヤロスワフの気は収まらない。休むことなく陰謀説を唱え続けてきた。

そして今回、陰謀説の「普及」のために登場したのが劇場用映画「スモレンスク」だ。今月10日の一般公開に先駆けて行われた試写会にはヤロスワフはもちろん、シドゥウォ首相、ドゥダ大統領など政界の要人が訪れた。上映後のインタビューでヤロスワフは「真実を知りたいポーランド人はこの映画を観なければ」と大推薦した。

さて、この「真実」はもちろんヤロスワフのいう真実なのだが、PiSが政権に就いて以来、信じる人が増えている。今年3月の世論調査で「陰謀だと思う」人は22%と、1年前に比べ8ポイントも増加した。

一方で、陰謀説を信じるかどうかは「PiSを支持するかどうか」と密接に関連している。PiS支持者では信じる人の比率が71%に上るのに対し、非支持者では9%にしかならないのだ。

映画「スモレンスク」は架空のジャーナリストが(架空の)証拠を発見して真実に迫っていくという仕立てで、「陰謀だった」と声に出して結論を出すのではないが、だれが見ても結論が分かる内容となっている。特に「陰謀かどうかわからない」という層を「陰謀信仰派」に取り込み、ひいてはPiSの支持者にするのが狙いのようだ。

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