ロシアの航空会社で国内線最大手のS7は先ごろ、スイスに本拠を置く航空宇宙会社シーローンチ(Sea Launch)をロシアの国営航空宇宙企業体RSCエネルギヤから買収することで合意した。S7はロケットの海上発射システムを持つシーローンチの買収で商用ロケット打ち上げ事業に乗り出す意向だ。しかし、ウクライナとの関係悪化により生じたロケットの調達先の問題や、2014年以来運用されていなかった海上発射台の改修など課題は多い。
S7の親会社S7グループのフィレフ会長によると、シーローンチに対する投資額はおよそ1億5,000万ドル。エネルギヤからシーローンチの全株式の95%を取得すると共に、シーローンチの持つオデッセイ海上発射台及び海上での管制用船舶を含む資産を取得する。エネルギヤはコントラクターとして今後も打ち上げに必要なエンジニアリング技術などを提供していく。
今後は米国の国務省防衛取引管理局と外国投資委員会の承認を待つことになる。計画では打ち上げ開始は2018年後半。フィレフ会長によると、米ロ両国間の合意によりシーローンチは米国の規制に服するため、米国の認可取り付けまでに6カ月から9カ月、その後打ち上げに向けた準備期間として18カ月が必要だという。同会長は今回シーローンチを買収したことで宇宙産業に参入する足掛かりを得たと述べた。
シーローンチは移動式の海上発射台を保有している。発射に際しては発射台を米カリフォルニア州からハワイ南部の赤道近くの太平洋上まで移動させる。S7は15年間で最大70回の打ち上げを目指す意向だが、シーローンチの実績は必ずしも芳しいものではない。1999年から2004年にかけて行われた36回の打ち上げのうち成功したのは3分の2。フィロフ氏はS7にとり難易度は非常に高いと述べた。
シーローンチは1995年にRSCエネルギヤと米ボーイング、ウクライナの企業でロケットなどを設計するユージュノエ及び生産を行うユージュマシュなどの合弁会社として設立された。しかし20機余りを打ち上げた後、2009年に債務超過に陥り倒産。RSCエネルギヤが株式の約95%を取得し資本注入を行ったが、14年に発生したウクライナ危機で同国からのロケットの納入が難しくなった。事業を継続するためにはロケットを調達する必要がある他、発射台の改修や新型ロケットの設計を行わなければならない。ロシアのタス通信によれば、フィレフ氏は1億5,000万ドルを投資する意向を示しているが、必要投資額が膨らむ可能性があり今後S7の収益性にも影響が出かねない。
またボーイングとの間には2009年の倒産以前に発生した債務に関する訴訟も抱えている。ボーイングが肩代わりしたシーローンチの債務3億ドル余りの支払いを求める同訴訟では、今年5月にカリフォルニア州の地方裁判所が同社の訴えを認める判決を下した。ロシア紙『イズベスチヤ』はエネルギヤが債務の一部を支払うと共に部品の共同開発などを進めることなどが両社の間で議論されていると報じている。
最近の経済の低迷によりロシアの航空会社の経営は苦しさを増している。ルーブル安のためドル建てでの経費の支払いが膨らみ負担となっている他、売上の見込める国際線の利用が消費の低迷で減少している。国際線に大きく依存していた同国第2位の航空会社トランスアエロは1年前に債務超過に陥った。
一方国内線に重点を置くS7の事業は順調だ。今年1-8月期の航空機利用者数は業界全体で前年比9%減の5,800万人と落ち込んだが、同社の利用者数は6%増加した。この結果同社はアエロフロートに次ぐ国内2位となり民間では最大の航空会社となった。2015年に前年比で16%増加した売上高は、今年上半期には前年同期から35%増の6億8,900万ドル、純利益は800万ドル(ロシア会計基準)に達した。(1RUB=1.66JPY)