ロシアの自動車産業の苦境が続いている。同国の欧州ビジネス協議会(AEB)によると、乗用車と小型商用車の今年の販売台数は前年比10.3%減の144万台に減少する見通しだ。今年上半期の販売台数は前年同期に比べ14.1%減の67万2,140台だった。メーカー各社は輸出先の開拓やコスト削減に取り組む一方で、新工場の建設や電気自動車(EV)の開発に乗り出すなど新しい動きも見られるようになっている。
同国の今年の乗用車の新車販売台数は2003年の130万台を下回る120万台まで落ち込むと見られている。販売を増やしているのは国内シェアの上位15社のうち同国のGAZ、UAZ及び米フォードの3社にすぎない。メーカーは消費が低迷する国内よりも輸出に期待をかけている。独フォルクスワーゲン(VW)がメキシコにポロ・セダンを輸出している他、フォード・ソレルスはアルメニアへの輸出を開始した。ルノー・日産アライアンスはベラルーシ、カザフスタン及びキルギスタンにSUV「キャプチャー」を輸出し、サンクトペテルブルクに拠点を置く韓国の現代自動車はカザフスタン、ベラルーシ、ウクライナ、ジョージア及びチュニジアに販路を広げている。
一方、外資系メーカーは生産量の削減やモデル数の絞り込みで対応しようとしている。それを背景として、今年1-7月期の乗用車及び3.5トン以下の小型商用車の生産台数は61万1,000台と前年から18.1%減少した他、乗用車のモデル数は7月時点で300種類と2014年の500種類から大きく減少した。
メーカーはまたコスト削減にも乗り出している。ロシアの自動車最大手アフトワズは今年7%、来年13%のコスト削減を計画する。しかし目標達成は容易ではない。同国の市場調査会社「ロシア自動車マーケットリサーチ(Russian Automotive Market Research)」によると、インフレを背景に今年1-3月期の部品価格は前年同期に比べ22%上昇。アフトワズは部品メーカーに値引きを求めていると報じられている。
こうした厳しい状況の中、各自動車メーカーは新工場の開設や新モデルの開発を通して生き残りを図っている。アフトワズは2025年までに主力車種の「ラーダ」に新たに8モデルを追加する他、既存の8車種についてもモデルチェンジを行う計画だ。「ラーダX-Ray」及び「ラーダVesta」の数種の新モデルの他、EVの「Vest」を市場に投入する。同社のムーア社長は、5年後には小型クロスオーバーモデル等の生産を開始すると述べた。スマートフォンで操作することができる新モデルも販売する予定だ。同社は今後の生産モデルの車台にルノー・日産のCMF-Bプラットフォームを採用するとともに、主力市場のCIS諸国に加えアフリカ、中南米、中東への輸出も目指す。
ドイツメーカーでは、ダイムラーはモスクワ北西のエシポボの工業団地に年間2万5,000台の生産能力を持つ新工場を建設し、メルセデス「Cクラス」と「Eクラス」のほかオフロード車を生産する。点溶接と塗装用設備を備えた新工場での生産開始は2019年上半期となる見通しだ。工場建設には資本提携しているロシアのトラック大手カマスが協力している。
また、BMWはカリーニングラードに拠点を置く自動車メーカー、アウトトル(Avtotor)の工場で新モデルの組立を行う。現在は「3シリーズ」及び「5シリーズ」、クロスオーバーモデルの「X3」、「X4」、「X5」、「X6」をセミ・ノックダウン(SKD)や完全ノックダウン(CKD)の方式で生産しているが、今後は現地調達を増やす方針だ。
中国メーカーの動きも活発化している。力帆集団(Lifan)と長城汽車が新たに組立工場の設置を計画しているほか、長安汽車(Changan)はこの9月からロシアの自動車メーカー、イリト(Irito)のリペツク工場で小型クロスオーバーモデルのSKD方式での生産を開始した。第一汽車(FAW)はカリーニングラードのアフトトルの工場での生産を予定する。福田汽車(Futon)はピックアップトラックとSUVを南西部のチェルケスで製造する計画だ。
日露合弁メーカーのマツダ・ソレルスは、2018年までに20億ルーブル(約2,900万ユーロ)を投じて極東のウラジオストックに新工場を建設し、エンジンを年間5万基生産する他、新型の「マツダ6」及び「CX-5」の生産も開始する。同プロジェクトはロシア政府と投資契約に基づき2023年にかけて行われるもので、組立からエンジン部品に至るまでの現地生産が含まれている。
ロシアの現地メーカー、ソレルスは韓国の双竜自動車のオフロード車の生産を再開する予定だ。同車は販売不振のため2015年3月に生産中止に追い込まれていた。
一方商用車メーカーも販売不振の中、新たな資金を投じて新技術を導入するなど開発を活発化させている。今年上半期の小型商用車の販売台数は前年同期比7%減の4万台、16トン以上の中大型貨物自動車は9.4%減の2万1,900台だった。これに対し、1-7月期の生産台数は7万400台と前年から6.2%増加している。
トラック大手カマスは来年、トラックキャビンを生産する工場を近代化するため70億から100億ルーブルを投資する予定だ。同社のコゴギン社長は、2018年から自動運転トラック並びにバスの運用試験を開始し、25年には生産に入る意向を示している。20年までに高度運転補助システムを備えたトラクターと、固定ルートを走行するバスをパイロット生産することを目指す。自動車技術の研究開発を行うNAMI、ITシステム開発のコグニティブ・テクノロジーズ、インターネット検索大手ヤンデックスといったロシア企業と協力していく予定だ。
今年8月のモスクワモーターショーでは、カマスが自動運転の12人乗り小型バスを披露した他、ボルガバスを製造するバクーリン・モーターグループが同じく自動運転の電動小型バス(8~12人乗り)を発表している。バクーリンは2017年に同モデル20台を生産する予定だ。(1RUB=1.64JPY)