露、医療分野への投資が活発化

ロシアで新しい医療施設の開設が相次いでいる。医療サービス市場の拡大が背景にある他、産科医院や周産期医療施設の開設など医療の充実を今後数年にわたり継続する政府方針が後押ししている。富裕層に焦点を当てた民間病院も増えつつあるが、医薬品や医療機器のほとんどを輸入に頼っており、近年のルーブル安で医療費が高騰するなど構造的な問題も抱えている。

モスクワの調査会社ビジネススタットによると、拡大の続く同国の2014年の医療サービス支出は約2兆610億ルーブル(299億5,000万ユーロ)に上った。経済制裁や石油価格の低迷により15年の実質GDP成長率がマイナスに転じるなど不況に喘ぐが、試算では同年以降も医療費の伸びは続く見通しで、17年には2兆7,000億ルーブルに達すると同社は予想している。

一方政府は過去数年間、医療の充実に力を入れてきた。特に産科医院や新生児医療施設の充実に多くの資金を投じている。ソ連崩壊以降、人口減に悩まされてきた政府が、最近になり少子化対策に取り組み始めたことが背景にある。

連邦政府が計画していた32の新設の周産期医療センターのうち既に28の施設が完成しており、残る4つも2019年までに整備が完了する見通しだ。また超音波診断機器や分娩室、IT機器などの最新機器の導入も進んでいる。

モスクワ市の第67市立病院では大規模な周産期・心臓病センターが先ごろ完成した。将来的に同市で生まれる乳児の5人に1人が同医院で誕生する計算になる規模で、5万平方メートルの敷地を持つ同医院は年間1万3,000人の新生児の誕生をサポートすることが可能だ。同市はまた郊外のコミュナルカ地区にも92億ルーブルをかけて総合助産施設を持つ新しい病院を建設している。入院病棟は606床を備えている他、助産施設には150床と子供用の180床がある。

モスクワ市周辺にあるモスクワ州でも今年中に3つの周産期医療センター、2つの産科医院、婦人科医院、がん治療センター、総合診療所と合わせて8つの病院が完成する見通しだ。これらの施設建設に同州は22億ルーブルを支出した。今後も11億ルーブルをかけて設備の充実を図ることを予定しており、支出額は総額で203億3,000万ルーブルに達する。事故対応などを行う数十の緊急医療施設も建設される。

こうした医療施設の建設ラッシュはロシア全土で見られる。北カフカスのカラチャエボ・チェルケス共和国には神経医療関連の療養施設と総合診療所が建設される。これらの施設建設には連邦政府の北カフカス開発プログラムの予算を充てる計画だ。

また近隣のカバルダ・バルカル共和国でも同様のプロジェクトが進んでいる。すでに130床を備え100人の妊婦に同時に対応できる新しい周産期医療センターが19億4,000万ルーブルを投じて建設されており、この12月にも開設される予定だ。また同共和国には計9億ルーブルをかけて糖尿病患者のための透析センターを2つ建設する計画もある。

シベリア南部のアルタイ地方では今年中に周産期医療センターの建設が完了する。同センターには22億ルーブル以上がすでに投じられているが、同施設の設備費だけで5億ルーブルが支出される予定だ。

また北コーカサス地方の北オセチア共和国のウラジカフカースでは結核専門病院が2019年の開設を目指している。共和国政府関係者によると同プロジェクトにかかる費用は約20億ルーブル。現在同共和国には結核療養施設が1つあるにすぎないが、それでも結核による死亡者数と患者数の減少に寄与している。02年には結核患者5人につき4人が死亡していたが、14年には患者の半数以上が回復するようになった。

民間医療については2015年の市場規模が4,629億ルーブルと前年比で9.3%拡大した。しかしビジネススタットは、その背景には医療サービスの価格高騰があると見ている。ロシアの民間病院はあらゆる設備と医薬品を外国から輸入しており、ルーブル安による支払額の増大に直面している。そのため民間医療施設での患者の支払額は高騰しており、昨年の診療数は前年から8.4%も減少した。いくつかの企業が高額医療を提供する民間病院との契約を破棄したのがその理由だ。

一方で拡大路線を続ける民間医療機関もある。9月初旬には同国1位の民間医療グループ、マーチ・イ・ディーチャ(Matj i ditja:2015年の売上高1億4,000万ユーロ)が西シベリアのチュメニにある病院を1億4,000万ルーブルで買収する計画が明らかになった。また同市周辺に1万5,000平方メートルの広さを持つ大規模病院を建設することを計画しており、17年夏にも着工する予定だ。同社はまた今年9月下旬、モスクワ州のラピノ病院に1億2,000万ルーブルをかけて435平方メートルの広さを持つ心臓・循環器外科センターを開設した。さらに同病院から10キロメートル離れたオディンゾヴォに1,500万ルーブルをかけて救急医療センターを建設している。15年にはこれらの事業拡張により21億ルーブルの純利益の増加につながった。

また医療診断の分野でも事業の拡大が見られる。ロシア第2の都市サンクトペテルブルクの医療診断の専門企業ヘリクス(Hekix)は、今年後半だけで約70の診断センターをフランチャイズ方式で開設する。同時に6億ルーブルをかけて検査施設の技術開発を進める。昨年の同社の検査件数は1,400万件。2017年には2,000万件まで拡大する見通しだ。同市場で同社と競合するInvito社も16年中に120カ所以上の診療所を開設する予定だ。(1RUB=1.79JPY)

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