ベルディムハメドフ大統領といえば、中央アジアはトルクメニスタンのエキセントリックな独裁者として知られる。これまでにも、「白はラッキーカラー」という持論で首都アシガバードに白大理石の建物を次々に建てたり、自らの巨大な金箔騎馬像を作るなど、話題を作ってきた。今回の新作はビデオだ。
国営放送が今月初めオンラインで公開した映像は、迷彩服に身を包んだ大統領が国軍兵の訓練を「指導」する内容。1列に並ぶ兵士らを前に、小銃、拳銃の射撃法にとどまらず、ナイフの投げ方まで見本を示した。その的中率は100%で、合間には兵士らの拍手喝さいが織り込まれている。
これを独立系シンクタンク「クロニクル・オブ・トルクメニスタン」がパロディ化したバージョンが、動画配信サイトのユーチューブで人気だ。1985年に公開されたシュワルツネッガー主演の映画「コマンドー」のシーンや音楽を加え、大統領の「ヒーロー度」を上げている。ただ、正直なところ、オリジナルでも十分に楽しめる。
このほか、大統領のメディア露出度は高い。孫2人と作ったというダンス曲を披露した動画では、観客の手拍子にのって楽しそうにキーボードを操作している。しかし、弾けるかどうかは明らかでない。孫らは途中で楽器から離れ、舞台で踊るが、幼稚園のお遊戯か小学校のダンスにしかみえない。
健康促進の見本となるべく、スポーツセンターで筋トレの様子を披露した動画も不思議な雰囲気を醸し出している。おそろいのトレーニングスーツを来た人々が注視する中で、機械を使って一人、筋トレにいそしむ大統領。誰一人笑う者なく、ひたすらまじめに練習する大統領が映し出されている。
一方で都合の悪い映像は禁止だ。トルクメニスタンの文化的象徴が「馬」であることから、ベルディムハメドフ大統領は「トルクメニスタンの馬飼い」という称号を受けている。その乗馬の様子はもちろん、国民も観られる。2013年にはレースに出場し、見事1位でゴールした様子がテレビで放映された。
しかし、ゴール直後に落馬し、救急車に運ばれたシーンはカット。すぐに授賞式に切り替わった。新聞などでも一切、落馬事故には触れられなかった。
トランプ米大統領の意表をつく行動が逐一報道されているが、トルクメニスタンの人々にとってはごく普通の範囲内なのではないだろうか。