ブルガリアで5月に就任したヴァレリ・シメオノフ副首相兼経済相が「行動派」イメージの宣伝に努めている。といっても、問題山積の経済政策ではなく、「騒音退治」が舞台だ。
ブルガリアの黒海沿岸は夏のバカンス客でにぎわう。その中でも最も人気の高いスランチェフ・ブリャグ(サニービーチ)がシメオノフ副首相の活躍の場だ。
今月半ばには警察官、税務調査官、保健監視官、労働基準監督官を引き連れて、夜中の12時にディスコ「オクシジェン」へ乗り込んだ。そして、「音量が許容値を超える」として、即時、閉店させた。
副首相はこの件が「始まりに過ぎ」ず、「黒海沿岸の騒音と戦っていく」決意を示している。
サニービーチは昔、ソ連など東側諸国から家族連れなどが出かける静かな海水浴場だった。今ではデンマークやドイツ、英国から若者が押し寄せ、昼は浜辺、夜は酒場やディスコで踊り飲みまくる人気スポットとなっている。
しかし、物価の安さから大酒をあおる者が後を絶たず、羽目を外すのはもちろん、飲みすぎで亡くなったり、酔っ払ってホテルの屋上から落ちて死亡する事故があったりと、評判はあまり良くない。年間1億ユーロの利益を稼ぎ出すホテル・外食業に目をつけ、マフィアが麻薬だけでなくアイス屋、タクシー乗り場などあらゆる「所場(ショバ)」をめぐって争いを繰り広げているともいう。この状況を見かねて、副首相が登場したわけだ。
しかし、観光業は客商売。騒音を理由とする「手入れ」を嫌って、恒例のソーラーサマー・フェスティバルが直前に中止となり、「ブルガリアのイメージに傷が付く」と懸念する声が強まっている。
ニコリナ・アングレコヴァ観光相は、23時以降の騒音が法律で禁じられている事実を確認しながらも、「解決に当たっては観光業界に影響の少ない方法をとるべき」との考えを表明。副首相の単独行動を暗に批判した。
さて、国民の人気取りが目的で始まった「騒音退治」。シメオノフ副首相が、政治で最も必要とされる「交渉で妥協点を探る」手腕を発揮できるのかどうか、これからが正念場となりそうだ。