ラトビア銀行界が大きく揺れている。イルマルス・リムシェーヴィチュ中銀総裁が17日、汚職疑惑で逮捕されたのに加え、19日には資金洗浄防止法違反の疑いで米国口座を凍結されたABLV銀行が支払い停止となった。
ラトビア汚職防止摘発委員会(KNAB)は16日、10万ユーロの賄賂を要求した疑いで、リムシェーヴィチュ総裁の自宅・オフィスを家宅捜査した。これを踏まえて19日に同総裁を逮捕したが、翌20日に10万ユーロの保釈金に代えて保釈した。
疑惑の詳細は明らかになっていないものの、同総裁の弁護士は、「逮捕は非合法」と抗議したうえで、「何年も前の事実関係が捜査対象となっている」と付け加えた。
同総裁は20日、「容疑は無実」として政府の辞職勧告を拒否した。政府は少なくとも、捜査の間は休職扱いとする構えだ。
一方、ラトビア3位のABLV銀行は14日、北朝鮮などの資金洗浄に関与したとして、米財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCen)から米国口座の凍結処分を受けた。このため、同行からの預金引き出し額は6億ユーロに達し、資金繰りが急速に悪化した。欧州中央銀行(ECB)はこれを受けて19日、同行に支払い停止を命じた。また、ラトビア中銀は同行の流動資金不足解消に向け、国債を担保に9,750万ユーロを貸し付ける方針を明らかにした。ABLV銀は容疑を否認している。
ラトビアは以前から、資金洗浄捜査における重点の一つとなっている。欧州連合(EU)加盟国である同国の銀行を通すことで、合法を装い、EU内で取引することが容易になるためだ。ロシアやウクライナ、モルドバなど独立国家共同体(CIS)諸国の企業・犯罪組織が口座を持つ銀行が存在し、最近では3行が処罰され、さらに5行が罰金支払いに応じた。
このような状況から、ラトビア銀行業界団体では今回、資金洗浄防止法違反の捜査にEUが直接乗り出すことを求める声があがっている。アイルランドやギリシャを発端とする欧州債務危機の経験から、欧州では主要銀行を直接監督する権限をECBに集約する「単一監督メカニズム(SSM)」が発足した。しかし、資金洗浄の問題については各国当局に権限があり、ECBでも今回の件については「ラトビア当局の捜査能力を信用している」とコメントするにとどまっている。