トルコの出版社が経費拡大に苦しんでいる。ほぼ全量を輸入に頼る紙が通貨リラの下落で高騰しているためだ。小規模文学出版社のノトスによると、書籍用紙価格はトン当たりで以前の700ユーロから900ユーロに上昇した。板紙もインクも繊維も外国から調達しており、著作権料の支払いも米ドル建てのため、経費は倍近くに膨らんでいる。値上がり分を全面的に販売価格へ上乗せすることは不可能で、出版社の台所事情は苦しい。
トルコに国産紙がなかったわけではない。イスタンブール近郊のイズミット市が「世界最大」と誇る製紙博物館は、若きトルコ共和国が1934年に設立したセカ製紙工場の跡地にある。国産化を進める政策の中で、「紙」は「文明のシンボル」として戦略的にも重視されたという。
しかし、国有企業の民営化が進むとともに、紙や紙の原料となるセルロースの価格が安くなり、国内生産で採算をとるのが難しくなった。結果として工場は生産中止に追い込まれた。
ただ、エルドアン政権に近い財閥が民営化を通して取得したバルケスィルの製紙工場は来月に改めて稼働する予定を発表している。実現すれば国内市場を独占し、価格決定力を握ると懸念される。
実際、新聞・雑誌の販売代理業を独占する企業の料金は高く、出版社の経費を押し上げている。
大手のデステク出版でも紙の値上がりが経営を圧迫している。同社はイスラム教を背景とした自己啓発書、ハウツー本、実用書など発行部数の多い書籍を出版しているが、規模の強みを以ってしても経費増加は容易にやり過ごせるものではないようだ。
新聞・雑誌では政治的圧力で反政府派の言論は封じ込まれてしまった。しかし、現在の出版危機は政治に端を発するものではなく、純粋に経済的な性格のものという。それでも、出版社の閉鎖や発行タイトル数の減少で、文化の多様性にかせをはめるには十分なようだ。