東欧出身のトラック運転手の酒酔い運転がドイツで懸念を呼んでいる。大型トラック絡みの事故が目立つことから、いくつかの管区で交通警察が高速道路沿いのパーキングエリアでアルコール検査を実施し始めた。バーデン・ヴュルテンベルク州のマンハイム管区もその一つだ。
ドイツの公道ではトラックの日曜・祝日走行が禁じられている。このため、長距離トラックの運転手の多くがパーキングエリアに車を止めて夜を明かす。家族と離れて過ごす退屈な時間をやり過ごすために酒を飲む人は多い。警察官は走行が解禁される日曜22時より少し前に、パーキングエリアを回って運転手が酔っていないか、確認している。
リトアニア人のある運転手は、「たった2本のビール」でアルコール検査を迫られたことに当惑気味だ。しかし、彼が飲んだのはデンマークの高アルコールビールで、1本1リットル入り。呼気検査の結果は1.46パーミル(=0.146%)と許容値を大きく上回った。本人は「明日の朝9時に出るからそれまでには大丈夫」と主張したが、警官は念のために運送書類を預かり、本当に酔いがさめるまで出発できないようにした。案の定、翌朝7時15分の検査でも0.62パーミルで運転不可。12時40分になってようやくゴーサインが出た。
警察が深刻な懸念を持つのも無理はない。これまでに◇蛇行運転する40トントラックがパトカーの停車命令を無視して走り続け、道路を通行止めにするために駐めておいた融雪剤散布車につっこんでようやく停止。運転室には複数のウォッカの空瓶が転がっていた◇ポーランド人の運転手が小型商用車で高速道路を逆走して事故となり、本人ほか2人が死亡。運転手の血中アルコール濃度は3.09パーミル◇リトアニア籍のトラックを運転していたベラルーシ人が一般道路沿いの緑地帯につっこむ。アルコール濃度は1.86パーミル――と身震いするような事故が定期的に起きているのだ。
ヴァルドルフ区で実施されたあるパーキングエリアのパトロールでは、運転手33人が酔っており、うち18人はアルコール濃度が1パーミルを大きく超えていた。2.3パーミルと最も濃度の高かった運転手は翌朝でも0.94パーミルと高い値を示した。
昨年、停車中のパトカーに追突して死傷者3人を出した事故では、トラック運転手は前日の夜に運転手仲間2人とウォッカ3リットルを飲み、当日についてはチーズを食べたことしか記憶にない。アルコール濃度は2.58パーミルで、懲役2年10カ月の刑を受けた。
交通心理学者のザイドル氏によると、東欧では度数の強い酒に体が慣れており、1パーミル前後でアルコールが吸収できなくなる体を持つドイツ人と違い、さらに飲み続けることができる。これが信じられないほどの血中濃度につながるようだ。
ザイドル氏は飲酒運転予防法として「アルコール・インターロック装置」の搭載を挙げる。呼気を吹き込んでアルコールが規定値を上回るとエンジンがかからなくなる仕組みだ。
ただ、外国での経験から、装備を変えるだけでは大きな成功は望めないことも判明しており、運転手が自覚することに勝る方法はないという。
マンハイム管区のシェーファー管区長は、「規模の大きな取り締まりを3度行った結果、職業運転手の7~9%が依存症だとわかった」と問題の大きさを指摘する。その多くが東欧の人という。
医師や心理療法士など専門家の助力を受けながら、酒をやめるのが交通安全上でも最善の策であるのは確か。ただ、「たった2本」のビールが危ないという認識が広まるには時間がかかりそうだ。