青少年に対するカトリック聖職者の性的虐待をテーマとしたドキュメンタリー映画が、ポーランドで大きな波紋を広げている。動画共有サイトのユーチューブで11日に公開されてからわずか1週間で2,090万人が視聴した。ポーランドでカトリック教会の果たす役割は大きく、教会への批判は長らくご法度だったが、最近になって社会が変わりはじめているようだ。
映画「言ってはいけない(TYLKO NIE MÓW NIKOMU)」は、ジャーナリストのトマシュ・セキエルスキ氏がクラウドファンディングで資金を集めて制作した。子どもだった頃に、司祭から虐待を受けた人の体験、かつての加害者との対面、虐待の傷をいやすために他の被害者の弁護を務める弁護士。そして、有罪判決を受けた聖職者が他の教区に移され、やはり子どもの世話を任された事実など、教会の「共犯性」が問われる内容だ。
リベラル派として知られるポーランドの最高位聖職者であるポラク大司教はこの映画が「胸に突き刺さった」とし、「聖職者が傷つけた人々に許しを請う」とコメントした。また、警察による捜査にも賛成した。司教会議のガデツキ議長も「大きな衝撃を受けた。悲しい気持ちでいっぱいだ」と感想をもらした。
また、教会の「守護者」を自負する与党「法と正義(PiS)」のカチンスキ党首は、映画には直接触れなかったものの、「年少者に対する性犯罪の最高刑を30年の懲役に引き上げる方向で刑法改正の準備を進めている」と発表。「聖職者であろうと、有名人であろうと処罰される」と話した。ただ、「青少年に対する性犯罪者は聖職者だけではない」と強調することも忘れなかった。
一方、教会内でも与党内でもこの映画を攻撃する声が聞かれる。グダニスクのグロジ大司教は「こんな映画を観るのなら、他にしなければならないことがある」とコメントした。ほかにも、犯罪の事実を否定する声も聞かれた。
与党の議員や支持者の中には、この映画を「教会=国への攻撃」ととらえる人もある。ある議員は「ヒトラーの『我が闘争』と同じようなもの」とまで言ったようだ。
教会は3月に発表した調査報告で「1990年以来、聖職者382人が18歳未満の未成年者625人に性犯罪を働いた」との結果を発表した。ただ、教会が解明・防止に本腰を入れるかどうかは今後の成り行きを見なければわからない。
ポーランド分割で100年以上、異国の支配下にあった同国では、カトリック教会がポーランドの言語と文化の守り手となり、民族としてのアイデンティティの維持に決定的な役割を果たした。国民の9割以上がカトリック教徒で、信仰が生活と密着している人も多い。以前であれば、教会批判はタブーだったが、聖職者の性的虐待ではローマ教皇フランシスコも対応を迫られるほど、世界的に関心が強まっている。
ポーランドの国民意識もこれに連動して、「罪を認めて反省する」ことを教会に求めていく方向に向いているとみていいだろう。真の尊敬を集めるためには、犯罪行為が起きた原因を探り、将来的な予防に役立てる、「大人の対応」が必要だ。
さて、セキエルスキ氏は映画の続編を計画している。映画を作る中で、新たな被害者との出会いがあったからだ。この人たちの体験や思いを伝えたいという。中立性を守るため、資金はやはりクラウドファンディング集めるつもりだ。これだけ反響があったことを考えると、続編実現の可能性は十分だろう。