これまで気候変動に関心を示してこなかったロシアが、地球温暖化を真剣に受け止めるようになってきたようだ。「暖かくなればロシアでも作物が育つ」などと言っていたのに、何が変わったのか。一つは3年連続の猛暑で沿海地方やシベリアで大規模な山火事が起きるなど、災害が深刻化・増加していることがある。加えて、他国の気候変動対策がロシア経済に大きな影響を与えるという危機感が浮上しているもようだ。
アナトリー・チュバイス国連特使(持続可能な発展担当)は今年7月、欧米・中国の気候変動対策でロシアの国内総生産が10%縮小する恐れがあるという見方を示した。欧州連合(EU)が2026年から、排出規制の緩い国からの輸入品に国境炭素税を課す計画であることもロシアへの圧力を高めている。鉄鋼大手のセベルスタリや肥料大手フォスアグロといった輸出企業は独自に対策を進めている。プーチン大統領もこのところの発言を総合すると、「人間が原因の一つを作った気候変動が起きている」という見方を追認した。それでも、政府が体系だった環境政策のビジョンを示すところまではきていない。
これについて、スコルコボ・マネジメント・スクール・エネルギー研究所のタチアナ・ミトロヴァ所長は、政府の目的が歳入の40%を占める化石燃料の輸出を継続することにあると説明する。モスクワのコンサルティング企業カーボンラブのミハイル・ユルキン社長も、気候変動の緩和が焦点でないと考える根拠として、政府の方針では、電源構成に占める風力・太陽光の割合が10年後でも2.5%にしかならないことを指摘する。長期的な視点からみれば、経済の多様化で化石資源に頼らない体質づくりが大切で、手遅れになる前に政府が経済に変革を促す排出規制を実施していかねばならないと訴えている。