●バビシュ首相の租税回避を報じたパンドラ文書も投票に影響
●野党連合は連立政権樹立を目指すも、先行きは不透明
チェコで8~9日に実施された下院選挙(定数200)は、リベラル派野党連合が僅差で与党ANOを抑えてトップに躍り出た。事前予測をくつがえす結果で、ANOの率いる連立政権への信頼が急速に崩れたようすがうかがわれる。ただ、組閣命令の権限を持つミロシュ・ゼマン大統領がアンドレイ・バビシュ首相を支持する方向にあったこと、同大統領が病気で入院していることなどから、選挙結果を受けた新政権がいつ成立するかは不透明だ。投票率は65.4%と、2017年の前回選挙よりも4.4ポイント増加した。
選挙管理委員会の発表(開票率100%)によると、中道右派の市民民主党(ODS)と「TOP 09」およびキリスト教民主連合(KDU-CSL)から成る野党連合「共に(SPOLU)」が27.8%を得票し、ANOを0.7ポイントの僅差で破った。海賊党と「市長・無所属(STAN)」によるもう一つの野党連合も15.6%を得たことを受け、両野党連合は連立政権樹立を目指してすでに提携協定を結んだ。
ANOと連立を組んでいた社会党(CSSD)と共産党(KSCM)はいずれも議会入りに必要な5%を下回った。CSSDが議席を獲得できなかったのはチェコとスロバキアが分離した1993年以来で初めて。KSCMも1989年の体制転換以来で初めて、議会入りが成らなかった。
日系人のトミオ・オカムラ氏が率いる極右政党「自由・直接民主主義党(SPD)」は9.6%に減り、ANOと連立を組むには力不足となった。
議席配分はドント方式で決まる。このため、各党の議席数はANOが72議席で最大。以下、SPOLUが71議席、海賊党+STANが37議席、SPDが20議席となる。
バビシュ政権は新型コロナ対策措置をめぐり、強い批判を受けている。昨秋の地方選挙直前に措置が緩和された後、感染者数が急増し、人口比の死亡者数が一時期、欧州最高を記録したためだ。
また、欧州連合(EU)の農業補助金をめぐる不正に首相自身が関与しているという疑惑も信用を落としている。さらに選挙直前に公表された「パンドラ文書」には、首相が租税回避地を介して南仏の不動産を購入していたと記されており、これが投票結果に反映されたもようだ。
ただ、ANOの得票率は2.5ポイント減にとどまっており、連立を組んでいたCSSDとKSCMの支持票が他党に流れたとみられる。
チェコで組閣作業を進めるには、手続き上、大統領が組閣を命じる必要がある。一般には「最大会派」に組閣の権利があると解されているが、ゼマン大統領は投票前から「一党単独で得票が最も多かった政党」という独自解釈を披露しており、ANOがまず組閣を試みる可能性が小さくない。
ただ、SPD以外の野党はANOとの連立拒否を明確にしており、これが新政権の成立遅延につながるのはほぼ確実だ。
さらに大統領は10日以来、集中治療室(ICU)で療養中。大統領の職務を誰が代行するのかが定まっていないため、いつ組閣作業が始まるのかも現時点では見通せない状況にある。