●同戦略はV2X技術に携わる企業が長く待ち望んでいたもの
●政府は自動運転と複合輸送を組み合わせたMaaSを推進
ロシア政府は昨年11月、次世代のモビリティに関する4つの戦略の1つとして、2030年に向けての運輸戦略を発表した。同戦略は新たなモビリティの在り方について総合的な視点を示したもので、同国の運輸部門の生産性や事故の発生率などに関する問題点を示し、高度道路交通システム(ITS)などの導入などを通した同部門の改革を促す必要性を指摘している。しかし専門家からは、通信インフラやセキュリティ対策など具体的な規制の在り方に関する踏み込み不足を指摘する声も上がっている。
■同国の運輸部門は深刻な課題に直面
同運輸戦略は政府が昨年8月に採択した電気自動車(EV)に関する戦略と合わせて今後のモビリティの在り方を示したもので、ロシアの運輸部門が深刻な課題に直面しているとの認識を示している。同国の労働生産性は他国の4分の1から10分の1と低い上、死亡率や渋滞時間は大きく上回っている。これらの問題に対処するため、政府は自動運転とマルチモーダル(複合輸送)を組み合わせた「モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS、サービスとしてのモビリティ)」を推進しようとしており、2035年には人口の60%にあたる8,000万人が共同高度道路交通システム(C-ITS)を備えた地域に居住できるようにすることを目指している。
■連邦政府と地方自治体が分担して事業を実施
今回の戦略はV2X(車車間・路車間通信)技術に携わる企業が長く待ち望んでいたものだ。政府及び民間のイニシアチブの大枠が初めて示されており、自動車メーカーやモバイル通信などの大手事業者が今後のこの戦略の推進事業に関心を示す可能性は高いと見られている。
同戦略では自動車とそれ以外のモノを接続するV2X技術をベースに、様々な輸送手段が連携するMaaSシステムの利便性を大きく向上させる一方、道路交通における死亡率を今後10年間で3分の1減らすことも目指している。
同戦略では、高速道路上の路側装置など「コネクテッド」関連インフラとITSは連邦政府が事業を実施する一方、都市については各自治体が自らの予算で計画を推進するとされている。コンサルティング大手KPMGによると、地方予算は規模が小さいため、官民が連携して事業を行う機会が生まれると見られている。都市部のITSと道路インフラを民間企業とのコンセッション(運営権売却)契約に基づき運営することも可能だ。またV2Xのサービスと車載装置の分野では企業が自由に競争する機会が生まれると考えられている。
■サイバーセキュリティやCAVの安全性確保が課題
しかし同国のIT企業スレダ・ソフトウエア・ソリューションズによると、パイロット事業に参加経験のある企業の多くが、サイバーセキュリティやコネクテッド自動運転車(CAV)の安全性、V2Xの導入パターンに関する要件について、さらに明確で野心的な計画が必要だと考えている。特に規制当局は適切な時期にIST向け第5世代通信(IST-5G)またはセルラーV2X(C-V2X)を選択する必要があるとしている。
サイバーセキュリティの問題も計画推進の障害となる。同国の自動車輸送研究所などは、DoS攻撃など高度な手法を必要としない攻撃事例がITSに対して多く存在することから、リスクの過小評価は危険だとの見方を示している。
スレダ社によると、例えばCAVを都市間の貨物輸送など経済的に意味のある分野に導入するのは有望なプロジェクトだ。しかし同戦略では、自動運転車の安全性や運転の効率性に焦点を当てた関連サービスの実施や、欧州電気通信標準化機構(ETSI)の基準に対し整合性のある技術要件は明らかにされておらず、自動運転車の安全性と利便性に対する懸念を払拭することができていないと指摘している。