●安価な農産品の過剰供給が価格暴落を引き起こしている
●ポーランドとウクライナは18日、穀物輸送再開で合意
ウクライナからの穀物輸入を禁止する動きが中欧諸国で広がっている。先週末にポーランドとハンガリーが禁止したのに続き、17日にはスロバキアが輸入の一時停止を発表した(編集部注:ポーランドは18日、穀物輸送を22日に再開することを発表)。同国産穀物の供給過剰で価格が下落し、これらの国の農家が損害を被っていることが背景にある。ウクライナ戦争で同国を支持する国々の保護主義的な姿勢に対し、欧州連合(EU)は「受け入れられない」と非難している。
ウクライナ産穀物を巡っては昨年、同国に軍事侵攻したロシアが黒海の港や海上輸送路を封鎖し輸出を妨害した。これに対しEUは国際市場への流通を促すため関税を停止。大幅に価格の下がった農産物を鉄道など陸路で輸送しているが、物流上のボトルネックのため主に中欧諸国にとどまっており、該当国で価格暴落を引き起こしている。一部の地域では抗議行動に発展しており、治安部隊が同国産穀物の輸送列車を警護する事態となっている。
ロシアと戦うウクライナの最も強力な「同盟国」であるポーランドが輸入禁止に踏み切った背景には、今年秋に予定されている議会選挙がある。政権与党の「法と正義(PiS)」にとっては支持基盤である農村地域の不満増加は選挙で不利に働く。同国政府は15日の緊急閣議後、少なくとも7月初旬まではウクライナ産農産物の輸入禁止を続けると発表。モラヴィエツキ首相はツイッターに「農家を助けず放置することは絶対にしない」と投稿した。ハンガリー政府も輸入禁止措置を6月30日まで継続する方針を明らかにしている。ブルガリアではゲチェフ農業相がウクライナ産穀物の輸入禁止を検討中だと伝えられている。
これらの動きに対しウクライナ側は困惑を隠さない。ソルスキー農業相は17日、同国産の穀物が「少なくともポーランドを通過することは」許可されるべきだと発言。両国間の問題を解決するための緊急協議がすでに始まっていると指摘したうえで、「まずは輸送が再開されるべきだ。これは非常に重要で、無条件に行われる必要がある。その後に他の事柄を話せるようになる」と述べた。ウクライナ政府はポーランドの農家に「同情している」としながらも、一方的な行動は状況の打開にはつながらないとくぎを刺した。
一方、EUは禁止に動いた国々に対し、自国の農業セクターの保護を目的とした一方的な輸入停止措置は容認できないと警告。輸入禁止の根拠の調査を開始したことを明らかにした。欧州委員会のフェレール報道官は「通商政策はEUの専権事項であり、そのレベルでのみ決定できる。このような困難な時期にはEU内ですべての決定を調整し整合させることが重要だ」との声明を発表した。