欧州委員会は26日、EU域内の温室効果ガス排出量を2020年までに1990年比で20%削減する場合と、目標を30%に引き上げる場合のコスト分析を公表した。2年前の試算では、20%削減の公約達成に必要な費用は年間700億ユーロ程度と予測していたが、経済危機に伴う生産活動の停滞で昨年は温室効果ガス排出量が予想を大幅に下回ったことなどから目標達成が容易になり、新たな試算では当初に比べて3割以上少ない年間480億ユーロ(GDPの0.32%に相当)と見積もっている。一方、削減目標を30%に引き上げた場合の費用は年間810億ユーロと試算している。
\EUは米国や中国など他の主要排出国が相応の取り組みを約束することを条件に、20年までの削減目標を30%に引き上げる方針を打ち出している。欧州委のヘデゴー委員(気候変動担当)は、現時点では目標引き上げの条件が整っていないとしたうえで、「然るべきタイミングで政治的決断を下さなければならない」と強調。「EUにとって目下の優先課題は財政危機への対応だが、経済危機が終息に向かう中で意思決定のベースとなる最新の情報を提供する必要があると考えた。決断の時期は今ではないが、今回の分析結果を基に本格的な議論がスタートすることに期待する」と述べた。
\欧州委は20年を期限とする中期目標の達成に必要な費用を2年前の試算から大幅に下方修正した理由について、生産縮小による二酸化炭素(CO2)排出量の減少に加え、原油価格の高騰でエネルギー需要が落ち込んだことなどを挙げている。一方、経済危機がもたらしたマイナス要因として、多くの企業で収益が急速に悪化し、環境技術への投資が予想を下回ったと指摘している。
\削減目標を30%に引き上げた場合の費用に関しては、2年前に試算した20%削減のための費用(年間700億ユーロ)に約16%上乗せした水準で収まると予測。目標を30%に設定する場合に検討すべき新たな施策として、温室効果ガス排出規制の緩い国からの輸入品に対する炭素税の導入、域外での温室効果ガス削減プロジェクトを通じて取得するクレジットの効率的な活用、石炭火力発電への依存度が高い東欧諸国などへの支援策などを挙げている。
\AFP通信などによると、欧州委は金融危機発生後の状況を踏まえ、今回の通達に「30%削減を目指すべき」との文言を盛り込む方針だったが、公表の前日にフランスとドイツの経済・産業担当相が共同で会見を開いてこの点に強い懸念を表明。目標引き上げの前提条件を堅持するよう強くけん制した。さらに産業界からも「現実路線に戻れ」(欧州鉄鋼連盟幹部)といった批判の声が上がり、欧州委は通達文書の修正を余儀なくされたとみられている。
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