2010/6/21

総合 –EUウオッチャー

銀行の健全性審査、個別行の査定結果開示へ=EU首脳会議で合意

この記事の要約

EUは17日の首脳会議で、域内の大手銀行に対するストレステスト(健全性審査)の結果を7月末までに各行ごとに公表することで合意した。金融機関の健全性を示すことで、ギリシャの財政危機をきっかけに広がった信用不安を取り除くのが […]

EUは17日の首脳会議で、域内の大手銀行に対するストレステスト(健全性審査)の結果を7月末までに各行ごとに公表することで合意した。金融機関の健全性を示すことで、ギリシャの財政危機をきっかけに広がった信用不安を取り除くのが狙い。このほか首脳会議では、ギリシャ危機の再発防止に向けた財政規律強化策でも合意した。

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金融機関に対するストレステストは経営環境が悪化した場合の余力を審査し、資本増強が必要かどうか判断するためのもので、金融危機の震源地となった米国が最初に実施した。EUもこれに追随する形で昨年10月、域内の主要22行に対する審査を実施。銀行の健全性を判断する際の重要な指標となる自己資本比率に関して、国際的な規制である「バーゼル2」で最低基準とされる4%を下回る銀行はなく、域内の金融業界は景気がさらに悪化しても資本不足に陥る危険はないとの結論をまとめた。ただ、個別行のデータ開示はリスクが大きすぎるとして見送られてきたため、市場からは透明性が不十分といった批判が出ていた。

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AP通信などによると、欧州銀行監督委員会(CEBS)は域内の大手25行を対象にストレステストを進めており、7月後半に査定結果が公表される。ファンロンパイEU大統領は首脳会議後の会見で、加盟国が個別行のデータ開示に合意したことを明らかにし、「金融市場に対する信頼が回復される」と強調。EU議長国スペインのサパテロ首相も「完全な透明性の確保が根拠のないうわさを取り除き、銀行の健全性を証明して金融市場への信頼を回復する最善の方法だ」と述べた。

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一方、同日に合意した財政規律強化策は、ファンロンパイEU大統領を座長とする作業部会の中間報告に基づくもの。加盟国の予算案を各国議会が承認する前にEU全体で審査し、適切な財政運営が行われているかどうかを各国が相互にチェックするシステムを2011年から導入する。また、規律違反国への制裁も強化する。作業部会は首脳会議での承認を受け、詳細を詰める作業に入る。10月の首脳会議に合わせて最終案をまとめる。

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大きな焦点となりそうなのは、財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以内に抑えることなどを義務付ける財政規律に違反した加盟国への制裁内容。すでに違反国にはGDPの0.5%に相当する制裁金を科すという規定があるが、これまで発動された例はない。今後は自動的に制裁を発動する。また、制裁については、新たな規定を設けることも検討中で、EU補助金の支給凍結、EUの政策決定での投票権を一時的にはく奪するといった案が浮上している。ただ、投票権はく奪には、EU基本条約の改定が必要で、手続きが長期化するのは避けられないことから、実現は微妙との見方が多い。

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さらに首脳会議では、銀行に特別税を課し、将来の破たんに備えた基金を設置する構想をEUがカナダのトロントで26~27日に開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議で提案することも決めた。

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銀行税は欧州委員会が5月末に提案したもの。各国が国内の銀行から特別税を徴収して基金を創設し、銀行の経営が行き詰まった場合に公的資金に頼ることなく、必要となる破たん処理などの資金を拠出するという内容だ。EUは投機的な取引を抑える目的の国際金融取引税(トービン税)の導入とともに、G20の賛同を求める。

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銀行税については、EUは単独でも導入する構えだが、基金の用途に関して英国は銀行の破たん処理に限定するのではなく、国家会計に組み入れて柔軟に活用することを求めるなど、調整が必要となっている。

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新成長戦略を正式採択

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同日の首脳会議では、EUの向こう10年間の新成長戦略「欧州 2020」を正式採択した。「欧州 2020」は、EUを2010年までに世界で最も競争力のある経済圏に成長させることを目標に掲げた「リスボン戦略」に代わる新たな成長戦略。EUは3月の首脳会議で、EU全体で20年までに◇20-64歳の就業率を現在の69%から75%以上に引き上げる◇域内総生産(GDP)に占める研究・開発(R&D)投資の比率を現在の1.9%から3%に引き上げる◇ 再生可能エネルギーの普及促進やエネルギー効率の改善に取り組み、二酸化炭素(CO2)排出量を1990年比で20-30%削減する中期目標を確実に達成する――などの目標で合意した。しかし、教育および貧困対策が不十分として、同分野の調整を進めていた。

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今回の首脳会議では、「欧州 2020」に追加で◇中等教育における中退者の割合を現在の14%から10%以下に引き下げる◇30-34歳の層における大卒者の割合を現在の31%から40%以上に引き上げる◇現在約8,000万人に上る域内の貧困層を2,000万人減らす――ことを新たに目標として盛り込んだ。これらは欧州委員会がまとめた原案に入っていたが、3月の首脳会議で一部の加盟国がEU共通の数値目標を設定することに難色を示し、検討課題となっていた。

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