2011/1/3

環境・通信・その他

妊娠中絶制限の見直し命令、欧州人権裁がアイルランドに

この記事の要約

欧州人権裁判所はこのほど、アイルランドでガンを患った女性が生命の危険性から国外で妊娠中絶を余儀なくされたと訴えていた裁判で、アイルランド政府に対して女性への損害賠償を命じるとともに、妊娠中絶を厳しく制限している法規の見直 […]

欧州人権裁判所はこのほど、アイルランドでガンを患った女性が生命の危険性から国外で妊娠中絶を余儀なくされたと訴えていた裁判で、アイルランド政府に対して女性への損害賠償を命じるとともに、妊娠中絶を厳しく制限している法規の見直しを求める判決を下した。

\

アイルランドは憲法でも妊娠中絶を禁じ、19世紀半ばにさかのぼる法規により医学的に必要と判断できない場合は妊娠中絶を殺人罪とみなし、医師も当人も最高で終身刑を科せられる。医師は刑事罰に問われることを恐れるため、妊娠中絶を求める女性は英国など国外に行かなければならない。

\

今回の訴訟では3人の女性が国外で妊娠中絶を行ったケースで争われた。欧州人権裁の裁判官はガン患者の女性については主張を認めたものの、すでに4人の子供を抱えて生活保護に頼っているため中絶を望む女性とシングルマザーになることを望まない女性の2人については訴えを却下した。

\

アイルランドでは1992年に最高裁判所が政府に対し、妊娠女性の生命が危機にさらされる場合は中絶を認めるよう法規の改正を求める判断を下したが、政府はいまだに明確な規定を設けていない。これについて欧州人権裁は、アイルランド政府は不明確な法規を放置したままで、これに対する適切な説明を怠っていると批判。アイルランドでも論理的には中絶の権利があるものの現実的には不可能で、医師に妊娠中絶の適格性について法的に明確な指針を与えなければならないとして法規の見直しを求めた。ただし同国が妊娠中絶を原則的に禁じていることについては、出生前の生命の権利を尊重するアイルランド国民の道徳的価値観を反映したものとして支持しており、女性の権利が侵害された点を問題としている。

\

これに対してアイルランドのハーニー保健相は、政府は同国の最高裁判所の判決に沿って法規を改正する方針を示したものの時間がかかるうえ、来年初めに予定されている総選挙後の新政権まで進展は望めないと説明。同時に1992年と2001年の国民投票でも憲法改正は却下された点を強調している。

\