ロシア下院は26日、第2次世界大戦中の1940年にポーランド将校らが殺害された「カチンの森」事件など一連の虐殺事件について、スターリンの責任を認める声明を賛成324票で採択した。共産党議員57人を除く全会派が支持した。
\声明は、ソビエト秘密警察による殺害が「スターリン主義政権と、ソビエト連邦という全体主義国家の犯した罪」と明言。スターリンらソ連指導者の直接関与を証明する政府秘密文書の存在に触れた。そして、「人間の命を軽んじ、その権利を侵したソ連政権を強く非難する。ポーランド国民にわが国の友好の意を伝え、両国間関係が新たな時代の幕を開けることを希望する」とポーランドに和解へのシグナルを送った。
\下院のコサチェフ渉外委員長は、「上院を含め、過去にソビエト、ロシア議会がこの問題を取り上げたことはなかった」とし、「事実がうやむやにされていたために、ロシアとポーランドの両国で歴史の誤認が生じることになった」と指摘した。また、下院議席の3分の2を占める与党、統一ロシアは、声明採択により、下院は歴史の改ざんを許さない姿勢を明確にし、大統領府と見解を同じくしていることを示したとコメントした。
\ソ連によるポーランド人虐殺は、ソ連が占領する地域でポーランド人捕虜の行方不明者が続出したことを機に発覚した。ポーランド亡命政府の照会に対するソ連当局の説明があいまいであったことから、ソ連の関与が疑われた。しかし、ソ連政府は事件をナチス・ドイツの仕業とする見解を示し続けた。1990年にゴルバチョフ大統領(当時)がソ連の責任を初めて認めたものの、議会が公式に立場を表明したのは今回の声明が初めてだ。このため、ポーランドとの緊張関係が続いていた。
\下院による今回の声明は、プーチン首相が今年4月7日、ポーランドのトゥスク首相との会談で、スターリン批判に慎重な従来の姿勢を転換し、ソ連独裁政権を強く批判したことを議会として追認するもの。ポーランド政府はロシアが公式に国家の関与を認めた事実を歓迎し、和解に向けた重要な第一歩と評価した。
\ロシア側は今年5月以降、数回にわたり、これまで極秘扱いにされてきた虐殺事件の調査資料をポーランドに提供している。最近では今月3日、メドベージェフ大統領のポーランド訪問を前に、新資料が引き渡された。このように、ロシア側の動きが活発化したのは、今年4月10日にカチンの森の犠牲者追悼式典に向かうポーランド政府高官を乗せた飛行機が墜落した事故がきっかけだ。痛ましい事故がロシア国民の同情を集め、和解への歩みを後押ししたと言われる。
\ただ、プーチン首相は事件がソ連の犯罪であり、ロシアが謝罪する必要はないとの立場をとっている。これでは、ポーランド側は納得しないだろう。責任問題をとやかく言う前に、ソ連の後継国家としてロシアが自ら事件の詳細解明に尽力し、反省するという姿勢が求められている。ことばだけでなく、この虐殺事件を重篤に受け止めていることがわかる「態度」を示すことが必要だ。
\それは、日本の戦争責任をめぐる議論における、日本とアジア諸国の関係を写す鏡でもある。ナチス・ドイツの犯罪に謝罪し、賠償を行ってきたドイツ連邦共和国の姿勢に学ぶところは大きいのではないか。
\■「カチンの森」事件
\1939年9月、ナチス・ドイツのポーランド侵攻と同時に、ソ連は独ソ不可侵条約の秘密条項に従い、ポーランド東部を占領した。1940年3月、ソ連共産党政治局は占領地における「ナショナリスト及び反革命分子」を抹殺する命令を出した。これに基づき、現ロシア領スモレンスクに近いカチンの森の近郊などで、ポーランドの指導階級とみなされた将校、大学教授、実業家、神父といった人々が約2万2,000人殺された。
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