中・東欧、CIS諸国、ロシアに特化した情報誌

2011/4/20

総合・マクロ

中東欧諸国、単位労働コストでオーストリアをリード

この記事の要約

ウィーン国際比較経済研究所(WIIW)がオーストリアの会計事務所TPAホルヴァートの委託で実施した、オーストリアと中東欧9カ国の賃金に関する比較調査で、中東欧諸国の単位労働コスト(ULC)がオーストリアよりもはるかに小さ […]

ウィーン国際比較経済研究所(WIIW)がオーストリアの会計事務所TPAホルヴァートの委託で実施した、オーストリアと中東欧9カ国の賃金に関する比較調査で、中東欧諸国の単位労働コスト(ULC)がオーストリアよりもはるかに小さいことが明らかになった。ただ、今後はコストが継続的に上昇すると予想されている。

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調査対象国はブルガリア、クロアチア、ポーランド、ルーマニア、セルビア、スロバキア、チェコ、ハンガリーの中東欧9カ国とオーストリアの計10カ国。先月に実施され、今月14日に発表された。

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■賃金格差大きく

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2010年の1カ月あたりの人件費はオーストリアで3,966ユーロだったのに対し、スロベニアはその44%(1,745ユーロ)、調査対象国で最低のブルガリアは10%(395ユーロ)だった。

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税込み賃金に占める税・社会保険料の比率では、ハンガリーが51.8%と最も大きく、オーストリアの49.5%を上回った。スロベニアは44.9%、クロアチアは41.4%、ルーマニアは43.1%、セルビアは38%、ポーランドは36%、最も低いブルガリアは34%だった。2000年からの変動をみると、スロベニアとクロアチアでやや低下、ルーマニアとブルガリアでは大幅に低下した。今後も変化が見込まれるが、全体的な傾向としては縮小が予想される。

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手取り賃金の購買力を比較すると、オーストリアと中東欧諸国の差は名目額よりも小さくなる。スロベニアはオーストリアの63%、クロアチアは59%、チェコは58%、ポーランドは53%、スロバキアは49%、ハンガリーは42%、セルビアは39%、ルーマニアは35%、ブルガリアは31%だった。

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国内総生産(GDP)と比べた税・社会保険料負担が最も大きかったのはオーストリアで43%弱、ハンガリーも39.5%の高率だった。他の8カ国は、欧州連合(EU)の平均である39%を下回った。07年から09年にかけて税・社会保険料率が4ポイント引き下げられたブルガリアは29%、同2ポイント引き下げられたルーマニアは27%だった。なお、オーストリアと国境を接する国の中ではスロバキアが最も低かった。

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■ULCでも中東欧に軍配

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投資の判断基準として決定的な意味を持つULCをみると、中東欧諸国はオーストリアに比べ、いまだに低い水準にある。ブルガリアではオーストリアのわずか30%。中東欧で最もコストが「高い」スロベニアとクロアチアでもそれぞれ70%、60%と、その差は歴然としている。労働コストに対する生産量をみると、中東欧がオーストリアを上回ることになる。

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ただ、05~10年の推移をみると、ブルガリア、ルーマニア、チェコ、スロバキアの4カ国でULCは大幅に上昇した。スロベニア、クロアチア、ハンガリーの上げ幅は、オーストリアとほぼ同じ水準。結果として、オーストリアはスロベニアを除く中東欧8カ国との差を縮めた。今後3年間で中東欧諸国のULCは改めて上昇すると見込まれる。

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■金融危機への対応

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金融危機の労働市場に与えた影響をみると、自国通貨の変動相場制を採用している国のほうが、固定相場制の採用国に比べて解雇が少なかった。通貨の為替相場が下落したことで、ULCの競争力低下にややブレーキがかかったためだ。

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金融危機を受けて料率を引き下げたのはセルビア、チェコ、クロアチア、ポーランド、ブルガリア、ルーマニアの6カ国だ。ハンガリー、スロベニア、スロバキアは、ほぼ同じ水準を維持した。オーストリアは唯一、引き上げた。

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経済危機において中東欧諸国は売上税を引き上げる一方で、所得・法人税を引き下げる傾向がうかがわれた。1人あたりGDPが小さいセルビア、クロアチア、ブルガリア、ルーマニアでは税収に占める間接税の割合が比較的高い。オーストリアとチェコは約33%とEUの平均水準にある。スロベニアは37%、スロバキアは38%だった。

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所得税や法人税といった直接税でも差は大きい。直接税の税収に占める比率(2009年)はオーストリアが30%で最も高い。以下、ハンガリー(25%)、ルーマニア(24%)、ポーランド、チェコ(21%)と続く。最も低いクロアチア、ブルガリア、スロバキアはいずれも19%前後となっている。

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