独露間ガスパイプライン拡張は「EU政策と矛盾」、加盟国が計画中止を要求

ロシア産天然ガスをバルト海経由で直接ドイツに運ぶパイプライン「ノルド・ストリーム」の拡張計画をめぐり、一部の欧州連合(EU)加盟国がドイツへの反発を強めている。EUはウクライナ危機を契機にエネルギー分野で脱ロシア依存を図るため、調達先や調達ルートの多様化を進めているが、独露間のプロジェクトはこうしたEUのエネルギー戦略に反するというのが反対派の主張だ。東欧諸国などはドイツがEU全体のエネルギー安全保障より自国の経済的メリットを優先していると非難し、新たなパイプライン建設の中止を求めている。

ノルド・ストリームはロシアが主導し、ドイツが全面協力するかたちで2010年4月に着工。11年11月に年間供給量550億立方メートルのパイプラインが稼働を開始した。14年には事業主体のノルド・ストリーム社に出資する露国営天然ガス企業ガスプロム、英蘭系ロイヤル・ダッチ・シェル、独エーオン、オーストリアOMVが新たなパイプライン「ノルド・ストリーム2」を建設し、ドイツへのガス供給量を倍増させる計画で合意。今年9月に共同事業会社の設立に関する株主間契約を締結している。

独政府はノルド・ストリームの拡張計画について、ロシアとウクライナの紛争に伴うガス供給の混乱からEU諸国を守るのが目的であり、プロジェクト自体は「民間企業による商業的な事業」(メルケル首相)と強調している。

これに対し、東欧諸国は同計画が実現するとガスプロムに対する依存度が高まり、エネルギー源の多様化を図るEUの政策と矛盾すると反発。ロシアにとってはウクライナを迂回することで同国向けのガス供給を停止しやすい条件が整い、同国経由のロシア産ガスに依存する東欧諸国に深刻な影響が及ぶとの懸念を示している。

イタリアもノルド・ストリームの拡張に強く反対している。欧州委員会は14年末、ガスプロムと伊エネルギー大手エニなどが共同で計画した黒海経由でロシア産ガスを南欧諸国に輸送するパイプライン「サウス・ストリーム」について、ガスの生産と輸送事業の分離を定めたEUの規定に違反するとして、最初に着工したブルガリアに対して建設中止を指示。これを受けてロシア側が計画を撤回した経緯がある。

こうした反対派の強い要請を受け、加盟国は12月17、18日のEU首脳会議でノルド・ストリーム計画について協議し、「エネルギー分野の新規プロジェクトはすべてEU法に合致したものでなければならない」との文言を合意文書に盛り込んだ。EUのトゥスク大統領は会議後の会見で「ノルド・ストリームは(ガス供給源の)多様化にも(ロシア)依存の低減にもつながらない」と発言。レンツィ伊首相も記者団に対し、「サウス・ストリーム計画が差し止められたわずか1年後に、ノルド・ストリームの拡張を容認することはできない」と述べた。

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