旅行よりも家庭菜園~ロシア

皆さんもご存じのように、ロシアでは景気後退と通貨安で人々の懐事情が悪くなっている。このため、海外旅行へ行く余裕のある人が減っている。

2014年半ば以来、通貨ルーブルの価値は半減し、実質賃金は10%減と過去15年で初めてのマイナスとなった。プーチン体制下で初の減少ということになる。

世論調査大手のレヴァダセンターによると、食費や耐久消費財への出費を控えねばならない人の比率は1年間で37%から58%に急拡大した。海外旅行などと言っている場合ではない。

お金以外の理由もある。公式見解では制裁を実行する欧米は旅行先として「好ましくない」とされている。さらに、シリア空爆への参加でロシア人に人気の目的地であるエジプトとトルコへの旅行もできなくなった。「イスラム国(IS)」が犯行声明を出したシナイ半島上空でのロシア旅客機墜落事件、トルコ空軍によるロシア戦闘機の撃墜事故が起きたためだ。

ロシア旅行会社協会(AFOR)によると、昨年11月末以来、旅行商品販売数は半分に減った。すでに1-9月も31.4%減少しており、過去15年、つまりプーチン体制下で最大の縮小率を記録する見通しなのだ。

しかし、政府が「代わりに国内に出かけよう」と「愛国心」を鼓舞しているのに、国内旅行も思うように伸びていない。政府が30%増を見込んでいたのに対し、実際は「10~15%止まり」(AFOR)だ。

その原因は国内観光地の「愛国心不足」にある。需要増を見込んで価格を釣り上げているのだ。クリミア半島では今年、30~50%の値上げを予告している。それも、設備不足や旧態依然のサービスはそのままというからさすがだ。

そこでロシア人は「内向き」に転換した。郊外に持つ菜園付き小別荘、古き良き「ダーチャ」で過ごす時間を増やしている。夏はバーベキュー、冬はクロスカントリー、そして通年、人を集めてパーティーをする。その方がお得で楽しいというわけだ。

さて、通貨安は通常、外国人観光客の増加をもたらす。ロシアはどうかというと、実際、1-9月の旅行者数は13%増加した。しかし、本来ならば伸びしろはもっとある。

その原因はどこにあるかというと、ロシアの観光産業が未だ開拓段階にあるためのようだ。モスクワにある高級ホテル、マリオットオーロラホテルのコンスタンティン・ゴルジャイノフ支配人は「冬季オリンピックが開催されたソチでは観光地のようなものが整備されたものの、いまソチが旅行先として人気があるのは他に出かけるところがないからだ」ときっぱり。ロシアは観光地として成長できる素質は十分だが、まだ開発されていない。その証拠として「ロンドンは年間3,000万人が訪れるがモスクワはわずか300万人だ」と話している。

さて、外国人旅行客の国別内訳では昨年、中国がドイツを抜いてトップとなった。ちなみに3位は意外にも「宿敵」米国人という。

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