ドイツのコメディアンが先月、公共放送ZDFで披露した「侮辱の詩」が思わぬ波紋を広げている。民族・宗教的少数派や女の子に対する暴力、児童ポルノの視聴・マゾヒズム・獣姦といった性的倒錯などを「エルドアン大統領の行い」としてうたったもので、「ドイツでも許されない侮辱の例」として放映された。正直、レベルが低すぎて話にならない内容だ。
しかし、自らへの批判を受け付けないエルドアン大統領は今回も筋を通し、在イスタンブール・ドイツ大使を外務省に召喚したほか、11日にはZDF本社のあるマインツ検察局に「国家元首侮辱」容疑で立件するよう申請した。また、12日には大統領個人として通常の「侮辱罪」で告発した。
「国家元首侮辱罪」条項はドイツ帝国時代の遺産で、若い世代には「こんなものがあったのか」と驚かれている。過去には1965年にイラン最後の皇帝、モハンマド・レザー・パフラヴィー(パーレビ国王)がドイツの風刺画を侮辱として訴え、勝訴した例がある。立件にはドイツ政府の承認が必要で、内閣がどう判断するのかに注目が集まった。
ドイツではメルケル首相が主導した欧州連合(EU)と難民対策合意に対する反発が強く、「国家元首の侮辱」容疑の捜査を認めれば、「エルドアンの外交圧力に屈した」として首相に対する批判が広まるのは必至。とはいえ、認めなければトルコとの外交関係が悪化する可能性もある。
それだけに内閣は議論に時間をかけ、ようやく15日に検察の立件を認める判断を下した。ただ、意見は真っ二つに割れ、賛成と反対が同数だったため、最終的にメルケル首相の判断で「承認」の結論を出した。
標的となったコメディアンは心労がたまったもようで、レギュラー番組を含め、しばらく休養することになった。
一方、「本場」トルコのジャーナリストらは、ドイツメディアの取材に対し、新聞が強制的に政府の管理下におかれたり、記者が逮捕され刑務所に収監されたりといった例を挙げ、ドイツとは比べ物にならない危険と隣り合わせで仕事をしている事実を語った。
エルドアン大統領が黙っていられなかったために、ドイツで再びトルコの言論弾圧が報道され、世間の関心を高める結果となっている。