欧州43カ国が参加するユーロビジョン・ポップソングコンテストで今年はウクライナ代表のジャマラさん(32)が優勝した。スターリン政権下のクリミア・タタール人の強制移住を歌った「1944」は開催前からロシアの感情を害していたが、優勝はそれに追い討ちをかけた。
副首相、文化相、主要議員などなどが、ジャマラさんの優勝が「ロシアを『悪魔に仕立てる』『情報戦』の結果」と批判。ウクライナで開催される来年のユーロビジョンに、「ウクライナのブラックリストに載っているミュージシャン(クリミア編入賛成派や親ロ派支配下のウクライナ東部でコンサートを開催したミュージシャン)を送り込もう」、「いや、こうなれば軍楽隊がマーチで参加するのはどうだ!」という声も出ている。
ロシア政府が神経質になるのは珍しいことではない。だが、今回はジャマラさんの曲がウクライナ紛争という現在の問題にからむばかりでなく、強制移住の犠牲者がクリム・タタール人以外にもいる事実も背景にある。
北カフカスのチェチェン人やイングーシ人もクリミア・タタール人と同じように「ナチスに協力」したとされ、強制移住させられた。また、1927~32年の農業集団化で移住を迫られたのは、ロシア人も同じだった。
ソ連崩壊後に旧構成国で出てきた過去の反省(=スターリン政策の客観的評価と犠牲者の追悼)への動きを、ロシア政府や多くのロシア人は反感をもって受け止めた。そして、プーチン大統領就任後は、スターリンの功績(国の近代化、対独戦勝利)を強調することで間接的に罪を相対化する努力が続けられている。
政府はロシア国内でも言論統制を敷いている。そんな中でロシア人自身が受けた理不尽・不幸を思い出させるような歌が注目を浴びるのは不都合ということらしい。