セルビアのヴチッチ首相が旧ユーゴ連邦を構成していた西バルカン諸国政府に対し、統一市場の形成を呼びかけている。経済面での協力を通じて地域の政治的安定を図る狙い。西バルカン諸国が互いを必要としている事実を認識し、数百年にわたる対立を乗り越えるべきとの考えだ。
ヴチッチ首相は16日、訪問先のパリの講演で、かつて国粋主義政党に属していたことに関連し、「以前は自分もセルビア人が他の民族より優れていると思っていたが、今は、心を入れ替えて皆で共に生き、働いていかなければだめだと分かった」と話し、地に足のついた考え方の必要性を訴えた。また、「西バルカン諸国が結びつきを取り戻す道は欧州連合(EU)への統合だけではない」と述べ、独自のイニシアチブで関係を改善できるとの見方を示した。
「バルカン地域における対立や戦争は数十年どころではなく数百年も続いている」として国家間の協力が難しい現状を認め、具体的にはセルビア正教徒とイスラム教徒の対立、それに起因するボスニア・ヘルツェゴビナとセルビアの摩擦、セルビアによるコソボ独立の未承認――といった点を指摘した。
そのうえで、「(政治的な統合を含む)旧ユーゴ連邦の焼き直しではなく、西バルカン諸国全てが参加する関税同盟、統一市場を実現するのが夢」と訴えた。
EUについては、「セルビア国民のうち加盟賛成派は48%で、過半数は加盟が国益に反するとみている」と述べ、EUが心理的な求心力を失っている状況を指摘した。一方で、加盟政策を継続する姿勢を改めて確認。「ロシアとの良好な関係を維持することを望んではいるが、だからといって欧州とロシアを天秤にかけるようなことはしない」と言明した。
ロシアは以前からコソボ独立を拒否するセルビア政府を支持している。これに応じる形でセルビアは、ウクライナ紛争をめぐる欧州の対ロシア制裁参加を拒んだ経緯がある。