ロシアでHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者が増えている。昨年は新たに約9万5,000人の感染が報告され、感染者の総数は100万人超と、過去10年間で10倍に拡大した。国連エイズプログラム(UNAIDS)で東欧・中央アジア地域を担当するミシェル・カザツキン特使によると、ロシアをはじめ、アルメニア、アゼルバイジャン、カザフスタンなどの旧ソ連諸国はHIV感染が広がっている世界で唯一の地域という。
サハラ以南アフリカや欧米諸国では対策が実を結び、新規感染者数は減りつつある。主な感染経路である性行為については、コンドームの使用を広げる積極的な啓もう活動が効果を挙げた。また、薬物常習者の間では、注射器の使いまわしが感染の理由だが、注射器の無料配布や、ヘロイン依存症治療薬のメタドンの無料配布などが奏功した。
ところが、ロシア政府はこれらの具体策をまねるどころか、その効果を否定する姿勢だ。HIV感染の広がりは「西側のプロパガンダ」として、注射器を配布する非政府組織(NGO)の活動を邪魔している。クリミア半島を占領した時には、メタドン配布プログラムを即時停止した。
性行為感染についても、政府に近い戦略リサーチ研究所(RISI)は「避妊具は婚外性行為を助長し、HIV感染が広がる原因」とさえ言っている。コンドーム使用には正教会などが強く反対していることも影響している。ローマ法王ヨハネ・パウロ2世が在位時にコンドームを含む避妊を否定したことで感染防止対策が遅れたことが思い出される。