チェコ共和国の英語の愛称として「チェキア」を採用する話題は4月27日号の本欄で取り上げたが、今回はその後日談である。
国内での懸念をよそに、「チェキア」は半年前に正式採用された。公的な場で使用する地名の標準を決める英国地名常置委員会(PCGN)は9月、国連への登録を受けて「チェキア」の使用を推薦。米国務省も短縮形として呼称リストに加えた。
しかし、である。国民の反応は冷ややかだ。一部政治家が「プロモーションには名前が短い方が」と繰り返しても、「チェキア」の人気は上がらない。
首都プラハのヴァツラフ広場を速足で歩くITエンジニアのハシクさんは「誰も『チェキア』とは呼んでいない。今まで呼んできたように呼べばいいんじゃないかな」と話す。医学生のチェフさんも「愛称はいいと思うけど、『チェキア』は語感が悪い。なんか、すごくちっちゃいものとか、方言のような感じだ」という意見だ。
チェコの国名をめぐる議論は、チェコスロバキアが解体した1992年以降、たびたび取り上げられてきた。その中で挙がった「ボヘミア」は東部にあるモラビア、シレジア地方を除外するとして落選。「チェキア」も民族大移動時代の5~6世紀に移住してきた「西スラブ人の一部族の呼称が語源」として一度は却下された。
同じ西スラブ系でもチェコ人、モラビア人、シレジア人という民族意識があり、まとめるのは難しい。「チェコ共和国」を支持するモラビア出身の産科医ステイスコロヴァさんは、「民族と関係がなく聞こえるのがいい」と話す。「チェキア」は「『東』っぽくて民主主義国みたいじゃない」というのだ。
チェコ語教師のチュメイルコヴァさんは、「歴史的にみれば『チェキア』は正しいのかもしれないが、お上のお触れで言葉は変えられない」と指摘する。
今回問題となっている英語を除けば、チェコ語での愛称は「チェスコ」、日本語は「チェコ」、フランス語は「チェキー」など、呼び名が定着している言葉も多い。チェコ政府のウエブサイトなど「公式文書」では今でも「チェコ共和国」が使用されており、人気がなくて廃語となるかもしれない。