イタリア最大手銀行ウニクレディトの英国法人はこのほど、中東欧経済に関する報告書を発表した。それによると中東欧諸国における人口減少や労働力の質の低下によって生産性や潜在成長率が後退しており、将来の投資にブレーキがかかる可能性が指摘されている。人材の質の低下の背景には、低い教育水準や労働スキルのミスマッチ、国外への移民の増加に伴う人材の流出などが背景にあるが、これまでのところ各国の政府はその解決に向けた一貫した政策を打ち出せていない。
中東欧地域の成長率は2008年から09年にかけての経済危機以降低下し、以前の勢いを取り戻せていない。経済成長率から労働投入と資本投入を除いて算出される全要素生産性(TFP)の伸びの低下がその大きな理由だ。TFPの伸び悩みの背景には人口減と人材の質の低下がある。同地域の労働力の質や専門家の不足については世界経済フォーラム(ダボス会議)や世界銀行等の研究調査においても明らかになっており、投資家が同地域への投資を躊躇する原因となりうることが指摘されてきた。
人材の量と質に影響を与えているのはこの10年間の人口動態の変化である。1990年代に2.0‰(パーミル:千分率)だった出生率は2000年代初頭には1.1~1.4‰まで低下した。それが労働可能人口の減少につながり2010年以降顕在化した。今後10年間はそうした状況が続くと見られている。ウニクレディトなどによると、2020年の労働可能年齢にある人口はポーランドでは1995年の水準とほぼ同様、ロシアでは1995年の95%、中東欧平均は90%まで低下すると予想されている。人口はすべての中東欧諸国で減少しているが、国外への移民による労働人口の流出が続くブルガリアとルーマニアでは1995年比でこれまでに15%と12%と大きく減少してきた。
同地域では女性の就業率が低いことも成長を妨げる要因となっている。ブルガリア、ハンガリー、チェコ及びトルコでは男女間の差が2000年以降縮小したが、ポーランド、ルーマニア、ロシア及びスロバキアでは拡大した。
同報告書では、中東欧の多くの国で母親が職場に出ず子供と家庭で過ごす期間を長くするために金銭的な支援が行われていると批判している。政府には金銭による助成ではなく、保育制度の充実、職業訓練、住宅助成などの措置を取るよう求めている。