ロシア、機械産業振興に本腰

ロシア政府が機械産業の振興に力を入れ始めた。ウクライナ危機を受けた欧米の制裁措置を機に必要性の高まった輸入代替を促進する政策の一環で、特に機械やプラントの輸入依存度を引き下げるため外資企業に現地調達比率引き上げを求めるなどの取り組みを始めている。同国製品の価格競争力を高めるルーブル安が追い風となっているが、国内での生産には政府の求める現地調達要求を満たす必要があることから、調達先となる同国企業の製品レベルを向上させることが急務となっている。政府も補助金を増額するなど研究開発を奨励していく構えだ。

産業貿易省は2020年までに機械製品の輸入依存度を現在の81%から58%まで引き下げる計画だ。政府は今後4年間で大規模工場を100近く建設することを目標に掲げる。必要投資額は167億ドル。そのうちおよそ半分を工作機械関連投資に充てるとしている。

同国における工作機械の昨年の売上は22億ドル。そのうちロシア国内で生産されたのは4億8,500万ドル分に過ぎず、残りは外国からの輸入品だ。産業貿易省は国内企業の設備の近代化や生産能力拡大を図り国産比率を高めようとしているが、国内企業は品質や製品ラインナップの点で問題を抱え海外メーカーからの輸入に依存せざるを得ない状況が存在している。

同省はCNC工作機械の輸入依存度を67%まで引き下げるとしているが、国産品の生産を現在の3倍にする必要があることから野心的な目標だと見られている。同省は機械産業に対し補助金を支給する計画で、今年の支給額は昨年に比べ80%増の27億ルーブル(約3,800万ユーロ)に達した。それでも国内の機械産業の研究開発を促進し技術水準を高めるには十分ではなく、財政難にも関わらず同省はさらに補助金を増額する意向だ。輸入依存度の引き下げには製造業の再建のみならずロシア企業の機械・プラントの供給セキュリティを高める狙いもある。

昨年の世界の工作機械生産額に占めるロシアの割合はわずか0.6%で国別では17位に留まる。過去3年間のルーブル安でドル建ての生産額は減少したが、国内での生産コストは引き下げられ、輸出を志向するロシア企業やロシアに進出する外国企業にとっては追い風となっている。

現地生産を増やそうという政府の意図は政策にも現れている。一定額以上を投資する企業を公共機関や政府系企業の事業への参加において優先する措置を導入しており、マントゥーロフ産業貿易相は「技術移転に応じた市場シェア」と表現している。

最近外資企業が行った同国での投資では、DMG森精機がモスクワ東方900キロメートルのウリヤノフスクにあるウリヤノフスク工作機械工場に対するものがある。これまでに投じた1億ユーロに加え、今年9月には連邦政府と投資額7億5,000万ルーブル(1,100万ユーロ)の新たな契約に調印した。同社は同地に工作機械の研究開発センターを開設する。現在の生産能力はCNC旋盤年間1,200台だが稼働率は低く、今後ロシアと共にユーラシア経済連合(EEU)に加盟するベラルーシ、カザフスタンなど国外にも販路を広げていく考えだ。

同工場の現在の現地調達比率は15%。2020年までに70%まで高めるため現在同社は部品の調達先を探しているが品質の面で困難に直面している。一方政府から「国家生産企業」の認証を得ており、同国で生産された機器で公共調達に参加することが可能だ。

ウリヤノフスクにはその他にも海外から進出する工作機械メーカーがある。ドイツのベアトルド・ヘルムレは生産ライン、展示室及びサービスセンターを建設するため4億ルーブル(570万ユーロ)を投ずる予定だ。同じくドイツのトリミルは2億ルーブル(280万ユーロ)を投じて生産施設を建設する。

またロシア企業による工作機械の委託生産も始まっている。今年3月に経営破綻したウラル地方チェリャビンスク州のトロイツキ工作機械工場では、システムインテグレ―ション企業ATMグループが韓国の現代重工業やスペインのEDM(放電加工機)メーカーであるONAの工作機械の組立に乗り出している。

今年3月には同じくウラル地方のエカテリンブルクでプモリ・エンジニアリング・インベストが日本のNC工作機械メーカー、オークマと合弁会社を設立しNC旋盤の生産を開始した。2020年までに年間120台を生産する体制を整えると共に、現在30%の現地生産比率を今後70%まで高める計画だ。(1RUB=1.67JPY)

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