移民拒否の裏には~中東欧

中東やアフリカから大量の難民が到来した昨年夏以来、欧州連合(EU)では繰り返し、共同の解決策を探る試みがなされたが、いまだに成功に至っていない。大きな障害となっているのは、ハンガリー、チェコ、スロバキアなどの旧ソ連陣営の国々が受け入れを頑なに拒んでいることだ。共産主義時代に多くの人が「西側」へ亡命した歴史があるだけに、ドイツや北欧諸国の目には、これらの国々における難民への拒否感情が「意外」に移る。

この現象について、ロシア日刊経済紙「ベドモスチ」の創立者で元編集長のレオニード・ベルシドゥスキー氏がブルームバーグのコラムで「欧州最大の少数民族ロマの統合が成功していない」ことが背景にあると分析しているので、ここで紹介したい。

欧州基本権機関(FRA)はロマが多く住む中東欧の加盟9カ国で数千人を対象に対面インタビューを実施してまとめた調査報告書を先月発表した。これら9カ国では貧困水準が低い傾向にあるものの、その中でもロマは80%が貧困水準を下回る生活をしている。住居に水道が通ってない人は3分の1、電気が通じていない人も10%に上る。

被用者の比率は男性34%、女性16%に過ぎず、16~24歳の3分の2は学校にも仕事にも通っていない。中退率は高く、中退しなくてもロマ以外の生徒に比べて留年する子が多い。

貧困の大きな理由は「差別」だ。求職時や学校・医療機関とのやり取りなどで過去12カ月間に「差別にあった」比率は08年調査よりも減少したが、米ピュー研究所などの世論調査機関によると、ロマに対する感情はイスラム教徒より悪く、ユダヤ教徒よりも「ずっと悪い」という結果が出ている。

一方で、ロマの多く住む国々では、大物政治家を含めて「ロマの方が、社会に溶け込もうとしていない」という非難の声が頻繁に聞かれる。ピュー研究所による昨夏の調査によると、例えば「ハンガリーに住むイスラム教徒は自らの独特さ(異質さ)を保ちたがっている」と考えるハンガリー人は、76%にも上った。ただ、ハンガリーにはイスラム教徒がほとんど住んでいない。「ロマを社会に溶け込ませるのが難しい」という経験から、「イスラム教徒もそうだろう」と考える傾向にあるようだ。ハンガリー以外でも思考回路が似ているとベルシドゥスキー氏は推測する。

ソ連時代、東欧諸国ではロマの社会への統合策として定住を強制した。しかし、ロマは馬車で移動することを止めず、伝統的なコミュニティーを保ち続けた。EUは助成措置や社会の意識を高めるための教育・啓もう活動を実施してきたが、目立つ変化はみられない。

一方でより北に位置する欧州諸国では、ドイツが1964年に招へいした100万人のトルコ人労働者の例にみられるように、(東欧のロマよりもずっと深く)イスラム教徒が社会へ溶け込んだという経験がある。その差が、「社会や政府が難民を受け入れる能力があるかどうか」への評価の差につながっている。だからこそメルケル独首相は「We can do it」と国民(とEU)に訴えたが、東欧諸国からは「We can’t do it」との答えが返ってきたのだ。

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