ハンガリー与党・フィデスが先ごろ、「全体主義のシンボルを商業目的で試用することを禁止」する法案を議会に提出した。ナチスの「カギ十字」やソ連の「鎌と槌」、「赤い星」が対象で、違反者には20億フォリント(650万ユーロ)の罰金および2年間の懲役刑を科すという。
ナチス、ソ連支配下の苦難を想起させるという理由づけだが、実際の敵はなんと、蘭ビール大手のハイネケン。「赤い星」をロゴの一部に採用している同社に嫌がらせをしようという魂胆のようだ。
事の起こりはハンガリー系住民が多く住むルーマニア・トランシルバニア地方。同地でハンガリー系少数民族が開発して2014年に売り出した地ビール「チーキ」の名称が、ハイネケン傘下の同国競合「チウク」に類似しているとして、ハイネケンが訴訟を起こした。裁判所はこれを認め、「チーキ」の使用を禁止した。
フィデスは、国外に住む民族的ハンガリー人に国籍を付与したのに象徴されるように、「ハンガリー人」の権利保護を基本政策の一つとしている。このため、公にはハイネケンとの関連を認めていないが、今回の「全体主義のシンボル禁止法案」は一般にルーマニアでの商標判決への反応ととらえられている。
ミネラルウオーターのサンペレグリノなど、他にも赤い星を商標としている大手企業があり、政府が法案を取り下げるとの情報も出ている。一方で、24日にはハンガリーの旧ソ連政治犯・強制労働者協会(Szorakesz)と自由保護基金(Szava)が「ハイネケンの赤い星使用禁止」を求めて訴訟を起こしており、どう決着するのかはまだ不透明だ。
ハイネケンのトレードマークに初めて赤い星が使われたのは1930年代。第2次世界大戦後、消費者に社会主義を連想させるとして赤枠の白星に変更されたが、1991年のソ連崩壊を受けて復活した経緯がある。(1HUF=0.39JPY)