1960年代にフルシチョフ政権の住宅政策に沿って大量に建てられた集合住宅「フルシチョフカ」を立て替えるビッグプロジェクトがモスクワ市で持ち上がっている。160万人が住む800棟、床面積にして2,500万平方メートルを取り壊して新しい住宅を建築するというもので、費用は3,000億ルーブル(4億ユーロ)と見積もられている。
対象となる「フルシチョフスカ」は、深刻な住宅難を早急に解決するため、機能優先で建築された3~5階建てのプレハブ団地だ。そもそも「共産主義への移行が完了するまでの20年」を耐用年数としていたため、築40~60年を迎えて老朽化が進み切っている。手入れも行ってこなかったため、改修は無理で、建て替えることになった。
そのきっかけはやはりプーチン大統領の「鶴の一声」。背景には来年3月の大統領選挙と同9月のモスクワ市長選挙があるようだ。
大統領の腹心である、モスクワのソビャーニン市長は中産層からの支持拡大を狙って歩道・公園改修整備を進めてきたが、その効果はいまひとつ。ここで、より所得の小さい層の関心事である公共住宅整備に着手し、得票を伸ばそうという思惑らしい。ある政治学者は得票の増加幅をプーチン大統領で7ポイント、ソビャーニン市長で15ポイントと予測するが、実際にはどう転ぶだろうか。
「フルシチョフスカ」の住宅は一番広いタイプでも4部屋、65平方メートルで「手を広げれば壁か天井にぶつかる」と言われるほど小さい。ソビャーニン市長によれば、住民は同じ間取りのアパートに入居できるそうだが、面積が大きくなるため、家賃が30~35%高くなるという。また、建て替えプロジェクトを前に、公的機関による住民立ち退き要求を原則禁止する法律を改正する動きも出ており、警戒感を示す声もあがっている。