イスラム過激派につかまる弱み~中央アジア

ストックホルムとサンクト・ペテルブルグのテロ事件には共通項がある。両者ともに中央アジアの出身という点だ。それ自体はおそらく単なる偶然に過ぎないのだが、米国機関の調査結果を象徴しているとは言える。

米国の国家戦略研究所(INSS)が昨秋発表したリポートによると、シリア戦争でイスラム過激派グループの一員として従軍している中央アジアの旧ソ連諸国出身者は4,000人を超え、中東、西欧に次いで3番目に多い。しかし、故郷から直接、戦地に向かうのではなく、出稼ぎ先のロシアで過激派に勧誘されて戦闘員になるケースが多いようだ。

ロシアで働く中央アジア人は700万人を超えると推測される。これらの人々の仕送りが国内総生産(GDP)の重要項目となっている事実からも、出稼ぎが普通になっていることがわかる。

しかし、ロシアにおける出稼ぎ者への風当たりは強い。労働許可を持たないため、労働条件は過酷で、警察官からも「見逃し料」をとられる。また、ロシア人から外国人であるという理由で差別・嫌がらせを受けることも多い。これがソーシャルメディアで人とのつながりを求める行動につながる。そこで待ち構えていた「イスラム国(IS)」などの過激派に洗脳されていくというわけだ。

ストックホルムとサンクト・ペテルブルグのテロ容疑者はそれぞれ

ウズベキスタンとキルギス共和国の出身だ。彼らがどう過激化したかはよくわからないが、知人はよく働く「いいやつ」だと証言する。特に信心深い様子はなく、イスラム教で禁じられている酒を飲むこともあったという。

ソ連崩壊から25年が経ったが、中央アジア諸国のインフラは全く手入れされず、老朽化の一途をたどっている。医療・教育などの公共サービスでも医師、教師、公務員、法律家、エンジニアなど、若手が育っていない。現職者が次々と定年に達し、公共サービスが衰退する。汚職は蔓延し、先の生活の見通しは立たない。

このために出稼ぎ者がどんどん増えた。故郷の暮らしは仕送りで何とかなった。しかし、家族や地域社会という拠り所を失った若い出稼ぎ者の中には、さびしい気持ちにつけこむ過激派に取り込まれていってしまう人もある。

過激派グループだけでなく、マフィアや暴力団もさびしい若者の心の隙間に入り込んで新しいメンバーを獲得する。戦争や犯罪を防ぐには、その行為を取り締まる「対症療法」だけでなく、犯罪集団のような拠り所を必要としない幸福な子ども(人間)を育てる「原因療法(根治療法)」を施すことが大切だ。今回のエピソードもそれを伝えているのではないだろうか。

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