ポーランドが英国の欧州連合(EU)離脱決定を受け金融機関の誘致に動いている。同国の政府関係者が英国を訪問するなど企業への働きかけを強めている他、一部ではロンドンからワルシャワに人員を部分移動させることを決定した企業も出ている。現地の賃金水準やオフィス賃料が安価であるなどの利点がある一方で、人材の不足などの懸念を指摘する声もある。
英国のEU離脱決定を受けロンドンの金融機関関係者の多くは英国拠点からこれまで自由に行うことができたEU内での営業の継続に懸念を感じている。そうした中ポーランドは積極的に企業誘致に乗り出した。同国のモラヴィエツキ副首相はこの数カ月で度々英国を訪問、金融機関関係者に同国への移転を働きかけてきている。同副首相が今年2月、ブルームバーグに対し政府がHSBC及びゴールドマンサックスと交渉中であると述べた他、JPモルガンの幹部はポーランドの都市を訪問した。またこの3月に同副首相は、2017年中に4万人分のバックオフィス業務を誘致する意向を明らかにしている。
ポーランドのビジネスサービスリーダー協会(ABSL)のレヴェルネス会長は、英国から業務を移す企業のうち、その半数を誘致することができると自信を示す。現在多くの交渉が進められていることから同氏は2017年にはポーランドへの移転が増えると予想する。
ABSLによるとポーランドのビジネスサービス部門は約600の企業から成り、そのうち72%は外国企業である。同部門では21万2,000人が働いているが、そのうち多くがワルシャワ、クラクフ、ヴロツワフに集中しており、IT、ファイナンス、会計及び銀行サービス、人材関連サービスなどに従事している。
この部門の雇用は2020年に30万人まで拡大するとABSLは予想する。しかし今のところポーランドの主だった都市では空きオフィスが見られる。商用不動産大手コリアーズによるとワルシャワの空室率は14%、ヴロツワフは12.5%、クラコフで7%。さらに主要都市では2018年末までに合計で130万平方メートルのオフィススペースが供給されるとの予想だ。
同国はまた賃料の点でも他のEU諸国に比べ優位に立つ。ワルシャワのオフィス賃料は1平方メートル当たり月額12ユーロから21.5ユーロ。小都市であれば10ユーロから13ユーロに過ぎない。
コリアーズのスカルバ氏は、英国に拠点を置く多くの企業がポーランドのオフィス市場を注視していると述べる。今年7月以降金融機関が立地を決定すると予想しており、ポーランド国内かあるいはハンガリーのブダペストのような都市が検討の対象になっていると話す。
しかし人材確保の難しさを指摘する声もある。同国の失業率はここ25年で最低となっており、大都市では2%から3%まで低下している。ビジネスサービス部門における雇用は2016年に25%上昇した。
人材コンサルティング会社マイケルページ・ポーランドのジエジッチ氏は、「ポーランドの労働市場は売り手市場だが、採用候補者の数が不足しているわけではない」と話す。同国のビジネスサービス関連企業の拠点は大学のある都市に位置しており、よい候補者を見つけることは可能だと言う。2015年の学生数はヴロツワフが12万人、クラコフが16万2,000人。マルチリンガルの学生も多い。
現地の人材サービス企業ワークサービスのヴィツチキ氏は、同国の労働者は外国企業に対し高賃金だけでなく長期的な雇用関係を期待していると話す。「同国に拠点を移す企業は通常の賃金を20%上回る額を提示すれば最良の人材を得られる」と話した。