チェチェンに手を焼く大統領~ロシア

ロシアのプーチン大統領がチェチェン共和国に手を焼いている。同性愛者の逮捕・殺害など、組織的な迫害が起こっていることに対し、外国から強い批判の声があがっているためだ。プーチン大統領は国内で無敵のイメージがあるが、政治的事情からチェチェン共和国にはなかなか手が出せない。その状況が今回の問題にも映し出されている。

同性愛者の逮捕・殺害はロシアの独立系新聞『ノヴァヤ・ガゼタ』が4月初めに報道したことをきっかけに、国際世論の注目を集めた。人権擁護団体の情報も合わせると、チェチェンでは2月末から大規模な「反同性愛キャンペーン」が始まり、これまでに200人前後が逮捕され、うち半分以上が行方不明。少なくとも6人の殺害が確認されたという。

この問題について、メルケル独首相やマクロン仏大統領が事実解明を訴えるなど、国際世論の批判の目はプーチン大統領に向けられた。しかし、大統領はチェチェンのカディロフ首長に強いことが言えない。同共和国をロシア連邦内にとどまらせるために同首長と手を組んだ経緯があるためだ。強権政治で「治安」を維持するカディロフ首長が弱体化すれば、チェチェン、ひいてはカフカス地方が混乱に陥る可能性が強い。

カディロフ首長はもともと、父とともに独立派ゲリラを指導していたが、独立派内の対立を経て、ロシア側に寝返った。権力の座についてからは反対派を弾圧し、国民を特別税や恣意的理由による逮捕などで締め付け、自らはロシア政府からの交付金や税収を使い放題。国内は沈静化したが、その無法ぶりはロシア政府にとって目の上のコブだ。

ロシアの反体制派政治家、ボリス・ネムツォフ元第一副首相の暗殺事件でも、犯人につながる手がかりはどれもチェチェンに通じるのだが、チェチェン共和国内ではロシア警察も捜査できず、行き詰まったままとなっている。

性的マイノリティを支援する団体LGBTネットワーク・ロシアのコチェトコフさんは、「チェチェンの権力者は国際世論の反応に驚いた。というのも、チェチェンでは誰かが行方不明になっても騒ぎにならないし、加えて、彼らは『同性愛者は人間ではない』と信じていたからだ」と説明する。そして、同性愛者の迫害をなくすには◇迫害が「公平さを欠く大きな罪である」という自覚を広める◇犯人を捕らえ、罰する――ことが必要だと説く。その一段階として、ロシアにおける性的マイノリティ―をめぐる状況を調査する特別報告官を設置するよう、欧州評議会に求めていく方針だ。

しかし、チェチェンでの状況改善には国民の意識の改革に加えて、チェチェンの政治体制の変革も求められる。一つだけでも難しい課題であり、両方を実現させるには粘り強さと長い時間が必要になりそうだ。

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