ベラルーシが建設中のアストラヴェツ原子力発電所をめぐり、同国と隣国リトアニアの対立が激化している。リトアニア議会は15日、同原発を「国家安全保障上の脅威」と位置付ける決議案を全会一致で可決した。こうした懸念を強くアピールすることで、欧州連合(EU)や国際原子力機関(IAEA)を味方につけ、ベラルーシ政府に圧力をかける狙いとみられる。
ベラルーシはリトアニアの首都ヴィリニュスから約50キロメートルに位置するアストラヴェツに、ロシアの支援で出力1,200メガワットの原子炉2基を整備中だ。2019年初めに1号機が運転を開始する。
リトアニアは、(1)ベラルーシが実施した地質調査に問題がある(2)プロジェクトの透明性が不十分――などを理由に、新原発の安全性が十分に確保されていないと主張している。(2)については昨年、工事作業中に空の圧力容器が数メートル滑り落ちた事故で、報告を受けたのが遅かったと批判。工事を請け負うロシア原子力公社(ロスアトム)が「損傷は確認できなかったが、新しい圧力容器と交換した」とコメントし、安全対策に問題がなかったことを強調した一幕があった。
ベラルーシ側はIAEAなど国際機関が調査している事実を挙げ、批判は当たらないとの立場だ。ルカシェンコ大統領は「他の国々が原発を建設しているのに、ベラルーシだけができないわけはない」として計画継続を表明。「原子力大国ロシアが建設するのだから問題はない」とも述べている。
今回のリトアニアの反発にはエネルギー調達上の戦略も透けて見える。同国では現在、EU加盟の条件として停止した旧式のイグナリナ原発に代わる新原発の建設が計画されている。議会は今年4月、ベラルーシを念頭に「安全対策が不十分な設備」が生み出す電力の輸入を制限する法案を可決した。また、議員の中には、エストニア、ラトビア、ポーランドの議会に同様の法律制定を呼びかける決定を議会で採択するよう働きかける動きも出始めている。これらの国々がリトアニアに歩調を合わせれば、ベラルーシはバルト3国とポーランドの電力網に送電することができなくなり、余剰電力を輸出する可能性が大きく狭められる。