ユーラシア経済連合、統合の深化進まず

ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン及びアルメニアが加盟するユーラシア経済連合(EEU)の経済統合の深化に向けた動きが停滞している。統合の前提となる共通関税コードがすべての国で未だ批准されていない他、カザフスタンやロシアが関係の悪化した一部EEU加盟国との国境管理を強化する動きを見せるなど、一部には経済統合に反する動きも見られる。背景にはEEUの管理組織であるべき常設委員会が紛争を処理する能力を持っていないことや、加盟国の政治体制が権威主義的であるために経済統合よりも各国の利害が優先されがちなことなどが指摘されている。

今年10月以降のカザフスタンとキルギスタンの関係はEEUの統合に向けた動きに二国間関係が水を差す典型的な事例だった。今年11月に退任したキルギスタンのアタムバエフ大統領が退任前の10月中旬にカザフスタンのナザルバエフ大統領を口頭で激しく非難したことをきっかけに、カザフスタンは6週間にわたり国境管理を強化、両国間の物流に大きな支障が出た。又キルギスタンからの乳製品の輸入も禁止された。

ロシアとベラルーシの間でも二国間の紛争に伴い国境での取り締まりが強化された。ロシアの場合は、EEUの緩い国境管理の下で禁制品を再輸出することでベラルーシが禁輸措置から利益を得ていると非難し、今年2月に国境管理を厳格化した。カザフスタンもロシアと同様に、キルギスタンが数億ドル規模の中国製品をEEU域内に持ち込んでいると主張して自らの国境措置を正当化した。

キルギスタンに関わる問題としては、EEU加盟国間を行き来する物資に適用される関税コードがある。加盟国が国内法化し施行する期限は来年1月1日。アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン及びロシアはそれぞれ国内法化を実施した。しかしキルギスタンはまだ国内法に反映できていない。ロシアに対して友好的なキルギスタンが一方でこうしたスタンスを取ることができるのは、EEUが機構として脆弱であることを示す事例となっている。

このようにEEUが機構として弱いものにとどまっている背景にはロシアが相応の役割を果たしていないためだと指摘する意見もある。今年初めに出た英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)の論文では、加盟国にとってロシアの重要度が非常に高いにもかかわらずロシアが適切にEEUの動きを監視していないために、逆にリスクのある交渉が可能となっていることが指摘されている。同論文の著者のリルカ・ドラグネバ氏とカタリーナ・ウォルチュク氏は、「EEUの発足後、ロシアは注意を払わなくなった。そのため加盟国が各々の目的を果たすため瀬戸際政策をとるようになった。自身が持つ政策上の優先順位とロシアからの圧力に抗する能力との間でバランスを取ることが可能になっているのは、EEUの組織に非常に大きな複雑性があるが故である」と述べている。

政策アナリストのデニス・ベルジャコフ氏は、EEUが発足当初から抱える大きな課題として、不均等な経済規模、高度に個人化された半ば権威主義的なリーダーシップ、超国家的な制度の国内の政策決定に対する優越の不徹底を挙げ、EEUの発展はこれらの要因の組み合せによって阻害されるだろうと話した。

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