ニッケル「栽培」農家~アルバニア

アルバニア東部でアドリアティック・ドコラリさんはニッケルを栽培している。正確に言うと、ニッケルをため込むアブラナ科ミヤマナズナ属の「アリススム・ムラーレ(Alyssum murale)」という植物を育てている。ニッケル「鉱石」ならぬニッケル「鉱植物」は売ればお金になり、土壌改良に役立つ。20年後には一般の農作物を植えられる見通しだ。

アルバニア東部オフリド湖畔の土は元から重金属を多く含む。ドコラリさんによると、「トウモロコシや小麦、豆を植えてみたが土地がやせていて採算が合わなかった。だから何ヘクタールも放ったままになっていた」という。育つのは「雑草」の「アリススム・ムラーレ」ばかりだった。

というのもこの「雑草」、ニッケルの含まれる土壌でも生きていける耐性があるのだ。体の中にニッケルを蓄積しながら育っていく。

これに注目した仏ナンシー大学のギヨーム・エシェヴァリア教授(農学)はアリススム・ムラーレのニッケルを利用する方法を生み出した。

収穫した生のアリススム・ムラーレ。葉に多くニッケルが蓄積され、その濃度は約1~2%。これを乾燥し、粉にして燃やすと、ニッケル濃度20%の灰が得られる。

さらに、灰をろ過して化学反応させ、ニッケル塩として出荷する。 航空機・自動車製造業界でめっきに使用される材料だ。また、陶芸釉薬、メガネレンズのコーティング材などに使用される特定のニッケル酸化物を作ることもできる。

アリススム・ムラーレのような植物は「高蓄積植物」と呼ばれ、これらの植物に鉱物を蓄積させて抽出することを「ファイトマイニング(植物採鉱)」という。ニッケル以外にもカドミウムや鉛、セレン、亜鉛、銅、クロム、はてには金についても溜め込む植物が見つかっており、研究が進められているところだ。

アルバニアの例はもともと土壌に重金属が含まれていたが、工業化が進む中で土壌が汚染された場所は世界中、たくさんある。何もできずに打ち捨てられた土地を再生するための手法として、また、必要な原料を得る手法として植物採鉱がどんどん広まっていってほしいところだ。

上部へスクロール